具体的には、確率論、機械学習、宇宙論の高度な概念を組み合わせた「Hydro-BAM」と命名された、約10万行のコードからなるアルゴリズムを開発。同アルゴリズムは、非常に正確な予測を得ることができるが、それに要する時間は数秒から数十秒という短時間で済むという。これは、Hydro-BAMの訓練に使用した、スパコン上で約10万時間(約11年半)かけて実施した流体力学シミュレーションに匹敵するものだという。

こうしたシミュレーションの目的は、通常物質の分布のモデリングと、観測データを組み合わせることで、宇宙の大規模構造の理解を深め、その進化を解明することだが、加えてHydro-BAMでは、暗黒物質の3次元分布と銀河や銀河間ガスなどの通常物質との間のさまざまで複雑な統計的つながりを詳細に評価することによって、観測された宇宙を再現することが目指されている。

また今回の研究では、遠方銀河やクエーサーからの電磁波が中性水素の雲を通過することでスペクトルに吸収線が生じる“ライマンアルファの森”の吸収線パターンを高精度に再現することにも成功したという。ただしこの再現には、何百万もの仮想観測者を配置し、流体力学シミュレーションの徹底した後処理分析が行われたとする。

ライマンアルファの森のパターンは、地球からの異なる距離にある中性水素の雲に対応する明確な吸収線を見ることができる。つまり、宇宙の異なる年代を示すと共に、銀河間物質に関する情報を得ることが可能だとする。

なお今回の研究では、モデル化しようとしていた銀河間ガス、暗黒物質、中性水素の量のつながりが、階層的にうまく整理されていることがわかったとき、ブレークスルーがもたらされたという。さらに、電離ガスと中性水素の分布は、ガスの熱的状態に関する情報を与え、ライマンアルファの吸収フラックスを予測することを可能にすると結論づけている。

  • ライマンアルファの森の観測データが再現される様子

    宇宙のダークマター、電離ガス、中性水素の分布などの階層的分布を利用してライマンアルファの森の観測データが再現される様子 (出所:阪大Webサイト)

研究チームは今後、通常物質の物理を考慮した数千のシミュレーション宇宙を作成する予定としており、それにより、DESI、WEAVE-JPAS、すばるPFSプロジェクトなどの銀河サーベイから得られるデータを包括的に分析することが可能になるとしている。特に、この研究の成果である大規模なライマンアルファの森のデータセットによって、ほかの観測データから得られている宇宙論モデル間の不一致について、より詳細な吟味を行うことができるようになるとする。

今回の研究により、宇宙の大規模構造の進化についてより正確な理解が進むことで、「我々はなぜここにいるのか?」という人類の究極的な疑問の答えに近づくことが期待されると研究チームでは説明している。