まだまだ終息が見通せないこのコロナ禍において、ひとりでも楽しめる趣味を始めた人も多いのではないだろうか。

ソロキャンプなどアウトドア需要も高まる中、今回は釣竿にまつわる研究を紹介しよう。

釣竿といわれるとどんなものを想像するだろうか。用途によって使い分けるため釣竿の種類は多種多様であり、現代ではカーボンやガラス繊維が主流であるが、昔話でもよく出てくるような竹の釣竿を想像した人も少なからずいるのではないだろうか。竹の釣竿は日本の伝統工芸品として今もなお愛されている。

なぜ竹で釣竿をつくるのか、竹竿の「テ-パー(先細り)構造」と「中空構造」に焦点を当て、両者が織りなす力学的合理性を明らかにした北海道大学大学院工学院の研究グループの研究を紹介したい。同研究の詳細は「Scientific Reports」誌に掲載されている。

竹はアジアを中心とする温暖・湿潤な地域に広く分布し、竹の性質を活かし古くから構造材や日用品などに利用されてきた。日本には竹を原材料として釣竿をつくる文化があり、これは素材として豊富にあることに加え、軽量で強度・剛性に優れ、加工性に富んだ性質が釣竿と高い親和性を持っていたためであると考えられる。

釣竿は複合材料の採用によって材料面における目覚しい発展を遂げているが、長い釣竿の歴史の中において基本的設計概念は変わっていない。

  • 日本で使用されてきた竹竿の歴史

    日本で使用されてきた竹竿の歴史(出典:北海道大学)

竹竿と現代の釣竿に共通している「テーパー(先細り)構造」と「中空構造」に着目し、材料力学の理論をベースに円形断面を有する細長いテーパー付き中空棒を簡単な計算モデルで表現し、竹竿の力学的特性を検証した。

また、作用する荷重や中空率ごと、曲げ応力を最小化するテーパーを最適テーパーとし定式化することで上記2つの構造が織りなす力学的合理性を探った。

研究の成果は以下となった。

  • 竹が天然素材ながら釣竿と非常に高い構造的親和性を有していることが明らかとなった。
  • 「しなり」による応力の抑制効果を最大限引き出すテーパーの導出に成功した。

  • 「中空構造」が軽量化だけでなく、負荷変化に伴う最適テーパーの変動を抑制することが明らかとなった。

生物は長い歳月をかけ、自己の形質をその育成環境に適したものへ変化させていく。竹の持つ特異な「形」というものは、強度・重量的に高度に洗練されたものであり、結果的にその構造的性質がそのまま釣竿に利用されることになる。

そのため、現在の主流であるカーボンやガラス繊維の釣竿にはいまだ再現し得ない絶妙な構造バランスがそこにはあり、独自の釣味というものを釣り人たちに提供することができる。それが今なお世代を超え竹竿が多くの人々を魅了する所以であると考えられる。

同研究は、近年注目を集める竹に着想を得たバイオニックデザインへの新たな知見を提供するだけでなく、先人たちの天然素材に対する深い造詣と高い技術力を私たちに再認識させるものだ。

昔から利用されている天然素材には利用されるだけの科学的根拠があったのだとわかると、素材の特性を上手く利用し生活してきた先人たちには脱帽である。

竹以外にもいろいろな天然素材の伝統的・科学的知識体系の理論的解明が進んで、今後さまざまな分野において利活用され発展していくことを期待する。