分子科学研究所(分子研)と名古屋大学(名大)、北海道大学(北大)の3者は5月20日、ナノスケールの炭素のベルトのカーボンナノベルトにひねりを加えて裏表のないメビウスの輪とした「メビウスカーボンナノベルト」の合成に成功したことを発表した。

同成果は、分子研 生命・錯体分子科学研究領域 錯体物性研究部門の瀬川泰知准教授、名大トランスフォーマティブ生命分子研究所の伊丹健一郎教授(名大大学院 理学研究科兼任)、北大 創成研究機構 化学反応創成研究拠点の土方優特任准教授、同・ピリッロ・ジェニー特任助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の化学および材料合成に関する分野全般を扱う学術誌「Nature Synthesis」に掲載された。

グラフェンやカーボンナノチューブ(CNT)などのナノメートルサイズの周期性を持つ炭素物質「ナノカーボン」は、軽量で高機能な次世代材料として期待されている。形状による電子的・機械的性質に大きな違いがあるため、望みの性質を持つナノカーボン構造のみを狙って精密に合成する方法が求められている。その中で、有機合成によってナノカーボンの部分構造を持つ分子を精密に合成する「分子ナノカーボン科学」が近年注目され、世界中で研究されるようになっている。

これまでに、フラーレン、グラフェン、CNTの部分構造となる多数の分子ナノカーボンが合成されてきた。しかし、これらはトポロジーの観点から分類すると比較的単純な構造だという。

一方で、複雑なトポロジーを持つナノカーボンは理論化学的に多数予測されており、それらが示す未知の物性に興味が持たれるようになってきたともいう。それらナノカーボンの精密合成の第一歩として、これまで研究チームが提唱してきたのが、複雑なトポロジーを持つ分子ナノカーボンの「トポロジカル分子ナノカーボン」であり、結び目や絡み目といった複雑なトポロジーを持つ分子ナノカーボンの合成が進められてきた。今回の研究では、裏表のない特異なトポロジー構造として知られるメビウスの輪の形状を持つ分子ナノカーボン「メビウスカーボンナノベルト」の合成を試みることにしたという。

この構造を持つ分子ナノカーボンは古くから興味をもたれていたが、環状構造とひねりの両方からなる大きなひずみを克服する合成法がなかったため、これまで合成に成功したという報告はなかったという。そうした中、2017年に研究チームはベルト状の分子ナノカーボン「カーボンナノベルト」の合成に成功したことから、その合成手法をさらに発展させることで、メビウス構造を構築できる可能性が生まれたとする。