資生堂は5月17日、岐阜薬科大学の五十里彰教授との共同研究により、マグネシウムイオン(以下、Mgイオン)※1が表皮細胞に作用することで、細胞のヒアルロン酸産生を促進することや、スペルミジン※2産生を促進し、紫外線などの酸化ダメージから細胞を保護する効果があることを確認したと発表した。
同社の先行研究において、Mgイオンに肌のバリア回復効果があることを見出していたが、今回新たに保湿効果と保護効果についてメカニズムとともに明らかにしたという。
同研究の成果の一部は「日本病院薬剤師会東海ブロック・日本薬学会東海支部合同学術大会」(2020/11/21)、「日本生化学会中部支部例会」(2021/5/22)にて発表し、科学ジャーナル「International Journal of Molecular Sciences」の2021年12月号に掲載されたという。
資生堂では、20年以上前からミネラルが肌に与える影響について研究を続け、Mgイオンを肌に塗布することでバリア機能が回復することなどを明らかにしてきており、細胞内に多く存在するMgイオンの新たな効果を探索するため、同研究では、一部の皮膚疾患でマグネシウムトランスポーター※3の関与が報告されていることに着目し、表皮におけるMgイオンおよびトランスポーターを介したMgイオン輸送に着目して研究を進めたという。
その結果、塩化マグネシウム(MgCl2)を添加した培地で表皮細胞を培養すると、ヒアルロン酸合成酵素の発現が上昇し、実際に細胞からのヒアルロン酸産生が促進されることを確認。また、マグネシウムトランスポーターが機能しない表皮細胞にMgCl2を添加すると、ヒアルロン酸産生は促進されないことがわかったという。
以上より、表皮細胞がマグネシウムトランスポーターを介してMgイオンを細胞内に取り入れることで、ヒアルロン酸産生が促進されることが示された。
また、Mgイオンが表皮細胞において影響をもたらす物質について、マイクロアレイ※4などで網羅的に探索したところ、MgCl2を添加するとスペルミジン合成酵素(SRM)の発現が上昇することを発見。
続けて、表皮細胞に紫外線照射による刺激や過酸化水素による酸化ダメージを与える試験を行い、MgCl2を添加して培養した細胞では、無添加のコントロール群と比較して、紫外線や過酸化水素による刺激後の細胞生存率が上昇することを確認したという。つまり、Mgイオンは細胞保護効果を有することがわかったとしている。
資生堂は、同研究の成果を広く同社のスキンケアへ応用していくとしており、自然界に広く存在し健康維持にも重要な役割を果たしているミネラルについて、今後も研究を継続していく予定だという。
文中注釈
※1:体内や食品に多く含まれる、ヒトの健康維持に欠かせないミネラルの一種。体内におけるさまざまな生化学反応(タンパク質合成、筋肉や神経の機能、血糖コントロールや血圧調整など)を制御する、300種類以上の酵素系の補助因子。
※2:生体内に必要なポリアミンと呼ばれる化合物の一種。多くの細胞の成長や増殖、機能に関わり、抗酸化作用があることも知られている。
※3:細胞膜に存在し、細胞外から細胞内へMgイオンの取り込みを担うマグネシウム輸送体
※4:サンプル中の多種類の遺伝子発現変化を網羅的に解析する手法