IDC Japanは5月16日、国内産業分野向け5G(第5世代移動通信システム)市場の展望を発表した。これによると、同市場はまだ初期の状況ではあるものの、着実に進展しているという。

  • 産業分野向け5Gユースケースのロードマップ

同市場では現在、大企業などによる実証実験や、地方の課題解決を中心とする総務省の開発実証などが行われているが、企業の自らの予算による商用導入はまだ限定的という。

その主な要因は、産業分野で画像AI(人工知能)分析やリアルタイム制御などを使用する高度なDX(デジタル・トランスフォーメーション)アプリケーションがまだ成熟していないこと、パブリック5Gのサービスエリアが十分に広がっていないこと、ローカル5Gの価格が高いことなどが挙げられるとのこと。

一方で、着実な進展も見られるとしている。例えば、ローカル5Gソリューションの価格は急速に低下しているとのこと。日本電気(NEC)、東日本電信電話(NTT東日本)、富士通などが、マネージド・サービスやスモールスタートのためのパッケージとして、これまでよりも安価なローカル5Gソリューションの提供に乗り出しているという。国内では、多くのローカル5Gベンダーが無線LAN並みの低価格と運用の容易さを目指すとしており、今後数年間にわたってローカル5Gの価格低下が続くと同社は見ている。

5Gのユースケースに目を向けると、現時点では、高精細映像の遠隔リアルタイム中継と、機械の自律運転による省人化に関する取り組みが多く見られるという。取り組みが増えている背景として、前者は、例えば360度カメラとVR(仮想現実)ゴーグルなど最低限の機器やソフトウェアによって、新規性の高いサービスをスモールスタートできることを、同社は挙げる。

後者は、人手不足による省人化ニーズが高まっていることに加え、主要な分野で自動運転技術がレベル4(特定条件下における完全自動運転)に達していることなどが取り組みの増加につながっているとのこと。

同社は、今後このようなユースケースの商用導入が比較的短期間で立ち上がると見ている。また5Gのユースケースは、今後約10年の間に大きく広がると同社は予測する。

前半は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による社会活動のリモート化、ドローンや自動運転に関する規制緩和、物流業界や建設業界における残業規制の強化などが、企業の5G活用を後押しするという。後半は、メタバース利用の日常化、人とロボットの協働、リアルタイムデータに基づくリソース利用の最適化などへと、5Gの活用用途がさらに拡大すると同社は予測している。