名刺は一番正確な顧客データ

ちなみに、名刺文化は日本独特のものであり、欧米ではあまり名刺交換を行わないため、顧客データの取得が難しいそうだ。そこで、欧米では、ビジネスSNSであるLinkedInを使って、見込み顧客へのアプローチが行われているという。逆を言えば、日本でLinkedInの利用がそれほど進んでいない背景には、名刺文化があるのかもしれない。

「名刺は本人が渡してくれるデータなので、オプトインが行われた状態です。名刺に書かれているデータに連絡をすることができます。メールを受け取りたくない人は名刺にメールアドレスを入れていませんよね」と、堀内氏は語っていた。しかも、名刺は会社が公式に出している正確なデータだ。

今年4月に個人情報保護法が改正され、個人情報の扱いがこれまで以上に厳密になっており、 オプトアウトの規定も厳格化されている。こうした中、入手も比較的容易でオプトイン済み、かつ正確なデータである名刺を眠らせておくのはもったいないといえよう。

名刺データを活用したい企業がやるべきことは組織の変革

さて、名刺を電子データとして活用したいと思いながら、実現できていない企業は多いのではないだろうか。名刺管理サービスの導入は済んでいても、活用にまで至っていない企業もあるだろう。

前述したように、トレジャーデータは、顧客データに基づくビジネスフローが構築されているため、名刺データを個人が管理するという発想はない。マーケティング、インサイドセールス、営業、カスタマーサクセスと顧客データを引き継いでいくことで、ビジネスが回っている。

「日本の歴史ある企業では、顧客に営業がひもづいている体制をとっているケースが多いので、名刺は担当営業のモノという意識があります。この体制では、名刺を共有するメリットもありません。こういう会社では、名刺管理サービスを導入することすら難しいです。」と、堀内氏は日本企業で名刺の共有が進まない背景を指摘する。

そして、営業が名刺を持たないような体制を構築するには、「誰かが音頭を取らないと実現できません」と、堀内氏はいう。営業体制という大掛かりな組織改編を行うとなると、やはり経営層が立ち上がるしかないだろう。

昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるには、組織改革が必要という意見が見られるが、営業体制の刷新もその一環と言える。

最後に、堀内氏に名刺を含め、企業がデータ活用を進めるためのポイントを聞いた。すると、堀内氏は「社内のデータを1カ所に集めて、見えるようにすることが第1歩となるのではないでしょうか。意外にデータが眠っていることに気付くかもしれません。そのためには、メンバーのコンセンサスをとる必要があります。そして、新たなビジネスを立ち上げないと、会社が立ちいかなくなることを理解してもらう必要があるでしょう」と答えた。

データ活用はDXの手段の一つとして注目されているが、まずは、最も身近で有益な名刺データの活用から始めてみてはどうだろうか。