ソフトバンクグループ(SBG)は5月12日、2022年度3月期の連結決算(2021年4月1日~2022年3月31日)を発表した。売上高は前年比10.5%増の6兆2215億円となった一方で、最終損失は1兆7080億円と同社として過去最大の赤字となった。前年度(2021年度)は4兆9879億円の黒字と、国内最大の最終利益を達成したが、一転して大幅な赤字に転落した。2020年度も約1兆円の最終損失を記録しており、まさに業績が乱高下している。
守りの姿勢で慎重な投資を
同日開催された決算会見に登壇したソフトバンクグループ 代表取締役会長 兼 社長執行役員の孫正義氏は「雨が降ったら傘をさす。『守り』を意識した経営方針に切り替え、厳選した投資を実行していく」と語った。
過去最高の赤字を出してしまった主な原因は、AI(人工知能)関連のスタートアップなどに投資するビション・ファンドの投資損失だ。終わりを見せることなく世界的に拡大している新型コロナウイルス感染症と、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響もあり、投資するスタートアップの株価が軒並み暴落した。
ビション・ファンドの投資損益は3兆399億円の赤字で、前年度の6兆134億円の黒字から悪化した。つまり1年間で9兆533億円も悪化したということだ。孫氏は「中国の投資企業の業績が悪い。中国企業に対する新規の投資は慎重に検討しなければならない」と警戒。
ソフトバンクグループが最重要指標と定めているNAV(時価純資産)は18兆5000億円だった。2021年12月からの3カ月間で8000億円減少した。2021年3月時点では26兆1000億円だったので、1年間で7兆6000億円ものNAVを失ったことになる。
一方で、もう一つの最重要指標であるLTV(純負債/保有株式)に関しては、20.4%と21年12月末比で1.2%改善した。孫氏は「非常時でも35%以下に抑えることを目指しており、3年以上LTV25%未満を堅持している」と説明。
また、企業の短期的な支払能力を示す手元流動性を3カ月で8000億円増やし2兆9000億円にした。「今後2年間の社債償還額は1兆3000億円を見込んでいるため、十分に安定運行をしているといえる」(孫氏)
なぜ安定運行できているかというと、ビション・ファンドへの投資で失った金額よりも、上場株式の売却などで回収した金額が上回っているからだ。2021年度の12カ月累計の投資額は5兆2000億円だった一方で、売却などにより調達した資金は5兆6000億円だった。
ビション・ファンドの投資先企業は475社になったが、「1件当たりの投資額を減らしており、小粒の投資が増えてきた」(孫氏)といい、一方で新規上場数は21年度には27企業と過去最高で増え続けている。孫氏は「能天気に投資するのではなく、手元の現金が貯まるように、厳選した投資を行っていく」と方針を示した。
孫氏「攻めの姿勢も崩さない」
過去最高の赤字と、驚きを隠せない発表内容であったが、語気を弱めない孫氏は「『守り』に神経を注いでいくが、『攻め』の姿勢を崩すつもりはない」と断言した。
孫氏はいま、2つのことに神経を注いでいるという。一つはビション・ファンドの効果的な運用についてで、もう一つは英半導体設計子会社であるArmの次の展開についてだ。「新たな資金を使わずに、今持っている持ち駒の中で成長を目指す」(孫氏)
Armベースのチップ出荷数は2021年には290億個を突破しており、世界中の情報革命を牽引している。マーケットシェアも年々増加しており、2021年度の売上高は26億6500万ドル(約3430億円)と前年より34.5%増加した。
SBGは2022年2月にArmを米半導体大手NVIDIAに売却する計画を断念したと発表。2020年9月にNVIDIAと売却で合意したが、米、英、欧州などの各国政府、世界のIT企業がこぞって反対したことを受け断念した。「Armは第2の成長期へ突入している。上場の準備も進めており『手放さなくてよかった』と思えるようにする」(孫氏)
孫氏は最後に、世界のインターネット企業の時価総額を用いて情報革命の歴史を語った。1994年の世界のインターネット企業の時価総額を1として指数化すると、2021年には2400まで膨れ上がり、翌年の2022年には1800まで落ち込んでいる。その間、2000年~2001年のネットバブルの崩壊や、2007年~2008年のリーマンショックの影響により、何度も下落を繰り返している。
孫氏は「私は今、決して負け惜しみではく『2400が1800になったのがなんぼのもんじゃい』という気持ちだ。変化は一時的なもので進化は長期的なものだ。本質的なテクノロジーの進化を信じたい。これからも情報革命で人々を幸せにしていく」と熱く語った。