「相分離」により、アミン水溶液(液相)中でCO2がアミンと1:1で反応して固体のカルバミン酸(固相)を形成することができれば、溶液中の不安定なカルバミン酸を安定した固体のカルバミン酸として取り出すことでCO2を安定して吸収・固定化することが可能となるほか、反応系中(液相)から生成物であるカルバミン酸を取り除くことができるため、アミンとCO2の反応促進が期待できるという予測のもと、種々のアミン化合物を用いてCO2と反応して固体のカルバミン酸を生成する化合物の調査が行われたところ、シクロヘキシル部位にアミノ基が最低でも1つは結合しているジアミン化合物群が相分離により固体のカルバミン酸を生成することが見出されたとする。

中でもイソホロンジアミンが最も効率がよく、400ppmのCO2を吸収できること、CO2とイソホロンジアミンが1:1の比率で反応すること、水溶媒でも機能することが確認されたという。また、固体のカルバミン酸が懸濁した状態で窒素ガスを流通させながら60℃に加熱すると吸収したCO2をすべて放出し、固体のカルバミン酸はすべて液体のイソホロンジアミンに戻ることも確認されたとのことで、これは、加熱により固体のカルバミン酸の溶解度が上がり、溶液中に不安定なカルバミン酸が増えることで60℃という低温でもCO2が放出されたためと考えられるとしている。

さらに、イソホロンジアミンは大気中のCO2を99%以上の効率で100時間以上吸収し続ける耐久性があること、CO2の吸収・放出を少なくとも5回繰り返しても性能の劣化は認められなかったことから、イソホロンジアミンはCO2吸収・放出材料として繰り返し利用可能であることが示されたともしており、これらのことから、CO2回収の低コスト化が期待されるとする。

  • 相分離による高効率DACシステム

    今回、シクロヘキシルアミン基を持つジアミン分子を用いた相分離による高効率DACシステムが開発された (出所:都立大プレスリリースPDF)

今回開発されたイソホロンジアミンを用いた相分離によるDACプロセスでは、最大で1時間当たり214mmolのCO2(1molの吸着材を利用)を吸収できることが確かめられたとのことで、この速度は、実装が進められている排気ガス中のCO2を除去するアミン吸収法の約5倍、KOHを用いたDACシステムの3倍以上の吸収速度であるとするほか、近年報告されている種々のDACシステムと比較しても2倍以上のCO2吸収速度であり、低濃度CO2(400ppm)の除去という点においてトップクラスの効率で利用できるシステムとなることが期待されるとしている。

  • 二酸化炭素回収の仕組み

    (上)高効率で400ppmのCO2をイソホロンジアミンが吸収・除去し、固体のカルバミン酸が形成している様子。(下)イソホロンジアミンによるCO2の吸収・脱離のメカニズム (出所:都立大プレスリリースPDF)

なお、今回の研究では、実際の空気中のCO2を長時間除去できることも実証されたことから、システムの大型化とさらなる低コスト化を達成することで、これまでのシステムを凌駕する新しい相分離DACプラントを実現できると考えていると研究チームではコメントしているほか、現在、NEDOプロジェクト「未踏チャレンジ2050」でDACシステムだけでなく、バイオマス由来の化合物を用いたCO2変換反応の開発も進めているとのことで、今回開発された相分離を利用したDACシステムとCO2変換反応システムを組み合わせることで、空気からプラスチックや化成品を作り出す“ビヨンド・ゼロ”の社会を実現できると考えているともしている。

  • 二酸化炭素回収による炭素資源社会のイメージ

    相分離を利用したDACシステムによるCO2を炭素資源とした社会のイメージ (出所:都立大プレスリリースPDF)