具体的には、タンパク質の構造や動きを調べることができるX線溶液散乱法と、タンパク質周辺の磁場の強さや方向を操作できる独自開発の磁石装置を組み合わせ、カワラバトのISCA1が詳細に調べたところ、ISCA1は鉄硫黄クラスターを結合して磁場に応じて動くこと、柱状の多量体を形成すること、多量体の大きさは磁場に応じて変化することを明らかにしたとする。また、多量体を形成したISCA1が足場となり、向きを揃えてCRYを固定化させることで、磁場情報を方向情報などへと変換する「磁場情報変換システム」を持っていることも判明したとする。

  • CRY/ISCA1複合体の外観

    CRY/ISCA1複合体の外観。黄と赤の円は、本研究により明らかにされた鉄硫黄クラスターの配置。黄は硫黄原子、赤は鉄原子 (出所:量研機構プレスリリースPDF)

これらの結果は、網膜細胞に存在するCRYとISCA1の複合体形成が、「鳥が視覚的に磁場を見ている」というこれまでの仮説をサポートすると同時に、磁力線の角度と磁場の強さを視覚的に捉える初段階を具現化するものだと研究チームでは説明しており、今回の成果について、鳥の“帰巣本能”を解明する新たな手掛かりになると考えられるとしている。

  • 今回の成果により推測されたカワラバトのCRY/ISCA1複合体形成と地磁気の関係

    今回の成果により推測されたカワラバトのCRY/ISCA1複合体形成と地磁気の関係。磁場が強い高緯度に向かうほど、ISCA1の柱状多量体が伸びてCRYが固定されやすく、逆に磁場が弱い低緯度に向かうとISCA1とCRYがそれぞれバラバラに存在しやすくなると考えられるという (出所:量研機構プレスリリースPDF)

なお、ISCA1とCRYの複合体形成が、磁覚を持つすべての動物で普遍的なものなのかどうかはまだ不明であることから、今後は、磁覚を持つほかの動物(ヨーロッパコマドリ、マウスなど)や磁覚の有無自体が不明なヒトなどのISCA1やCRYに対応したタンパク質の性質を明らかにし、生物ごとの磁覚の仕組みや磁場の感じ方の違いを分子・量子レベルで解明することで、生き物が持つ磁覚の全容に迫りたいと考えているとしている。