九州大学(九大)、岡山大学、日本医療研究開発機構(AMED)の3者は、何回も繰り返し皮膚を引っ掻いてしまうアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎モデルマウスで研究を行ったところ、皮膚からのかゆみ信号を脳へ送る脊髄神経(かゆみ伝達神経)の活動が高まっていること、皮膚への引っ掻き刺激を抑えるとそれが起こらないこと、皮膚を繰り返し引っ掻くことで、皮膚と脊髄をつなぐ感覚神経でタンパク質「NPTX2」が増加し、それが脊髄のかゆみ伝達神経に作用すると、その神経の活動が高まってしまうことなどを発見したと発表した。
同成果は、九大大学院 薬学研究院 薬理学分野/高等研究院の津田誠主幹教授、同・大学院 薬学府薬理学分野の兼久賢章大学院生(研究当時)、同・古賀啓祐大学院生(研究当時)、同・白石悠人大学院生、同・浅井こなつ大学院生、同・白鳥美穂助教、岡山大学術研究院 自然科学学域(牛窓臨海)の坂本浩隆准教授、同・前嶋翔特任助教、米・ジョンズ・ホプキンス大学のMei-Fang Xiao研究員、Paul F. Worley教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。
かゆみは、掻きたいという思いを起こさせる感覚であり、通常は皮膚についた異物(ダニなど)を引っ掻くことで除去するという自己防衛反応と考えられている。
そうした皮膚の異物を除去するようなかゆみの場合は数回引っ掻くと治まるが、アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などに伴う慢性的な強いかゆみは、何回も繰り返してしまう、過剰な引っ掻き行動を起こし、それによって皮膚の炎症が悪化、かゆみがさらに増すという悪循環に陥ってしまう「かゆみと掻破(そうは)の悪循環」が生じ、かゆみを慢性化させる大きな原因の1つと考えられている。
日本におけるアトピー性皮膚炎の推定患者数は、2017年の厚生労働省の発表によると約51万人で、抗ヒスタミン薬など、かゆみを抑える一般的な医薬品では十分に効果がない状況とされている。しかし、かゆみがなぜ慢性化するのか、かゆみと掻破の悪循環がどのような仕組みで形成されるのか、それらのメカニズムはまだわかっていない部分が多いという。
これまでのかゆみの仕組みに関する基礎研究から、我々の身体には、かゆみの信号を皮膚から脳まで伝える神経路があることが示されていることから、研究チームは今回、何回も繰り返し皮膚を引っ掻くアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎モデルマウスを用いてかゆみのメカニズムに関する研究を行うことにしたとする。