開発された多層グラフェン光源は、従来のフーリエ変換赤外線分光装置(FT-IR)でも用いられている赤外熱光源と比べて数千倍ほど高速な直接変調(1秒間に10万回の点滅)が可能であり、今回の分析システムでは、グラフェン光源を変調させて赤外分析を行うことにより、高感度分析が実現された。これにより、グラフェン光源は、従来の赤外光源と比べて100万分の1程度の超微小な光源であるにもかかわらず、現行のFT-IRと同様の赤外分析が可能であることが示されたという。
また、サンプルをスキャンして赤外イメージング測定が行われたところ、従来のFT-IRの空間分解能を超える1μmという高空間分解能の赤外イメージングが実証されたとする。その理由として、グラフェン光源自体に生じる近接場によって、理論的な限界である回折限界を超える空間分解能が実現されていることが判明したほか、特定の化学構造(官能基)に特有の波長でイメージングが行われたところ、物質の化学構造の空間分布を示す化学イメージング観測にも成功したとする。
研究チームでは、今回開発された技術は、高空間分解能分析技術であるSNOMとは異なり、高価で大型な波長可変レーザーなどの外部光源やプローブを一切用いることなく、光源自体に生じる近接場を直接用いることで高空間分解能を実現した、新しい原理に基づく赤外分析技術と説明しており、この技術を用いることで、可視光並みのイメージングや微小・微量分析を、赤外領域でも安価で簡便に利用できるようになるとしている。また、それにより、これまで赤外光を利用できなかった分野でも赤外分析を適用できるようになり、医療・バイオ・創薬・新物質開発・環境分析などのさまざまな分野において、まったく新しい赤外分析技術を創出することが可能となるとしている。
特に、近年の分析技術は、単なる基礎研究や産業技術だけではなく、環境計測、疾病や感染症などの診断・分析に展開されており、人々の生活でも重要な技術となっている。そのことから、今回の技術は極めて幅広い分野に応用されることが期待されるとしている。