慶應義塾大学(慶大)、科学技術振興機構(JST)、神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の3者は4月19日、「多層グラフェン光源チップ」による新原理の赤外分析技術を開発し、1μmの空間分解能を実現したと発表した。
同成果は、慶大理工学部 物理情報工学科の牧英之教授、同・中川鉄馬訪問研究員、同・大学院の志村惟大学院生らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行するナノサイエンスとナノテクノロジーの基礎から応用まで全般を扱う学術誌「Nano Letters」にオンライン掲載された。
現在、赤外分析用の光源としては、広い赤外発光スペクトルを有するハロゲンランプやセラミック光源といった熱光源が主に用いられているが、そうした熱光源の多くが、小さくてもミリオーダーのマクロな光源であり、理論的な限界などによって、空間分解能は10μmほどに留まっていた。また、これらの熱光源は低速な点滅(10Hz程度)しかできないため、直接変調を利用した高感度測定も困難だったという。
一方、近年、赤外領域で高空間分解能を実現する技術として、プローブ先端に発生する近接場を利用した走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)に注目が集まるようになってきた。しかし、高輝度なレーザー光を微小なプローブ先端に集光する必要があり、大型かつ高価な赤外波長可変レーザーが必要となるほか、測定波長領域が狭いことや、利用には高度な熟練技能を要するといった問題があり、汎用赤外分析としては普及していないという。
こうした背景から、従来の赤外分析では、高空間分解能の局所分析を簡便に行うことが難しく、化学・材料・環境・バイオ・医療分野において、微小・微量分析やイメージングへの赤外分光の適用は極めて限定的となっていたという。
そこで研究チームは今回、新たな赤外分析技術として、サブミクロンオーダーの微小なグラフェン光源チップを開発するとともに、この光源を利用した新しい原理の赤外分析により、理論的な回折限界を超える高い空間分解能を有する赤外分析システムの開発を試みることにしたという。
グラフェン光源チップは、研究チームが独自に開発を続けている、小型・高速・安価なチップ上の新たな赤外光源であり、今回の研究では、最小で500nm角の超小型グラフェン光源チップが新たに開発され、この光源に対して測定サンプルを近接させることにより、微小なグラフェン光源チップからの赤外光を利用した新しい赤外分析システムが実現されたとする。