環境配慮やSDGsなどを実践する企業、それに関連した商品が増えてきたことにより、何気なく生活していても何かと環境について考えさせられる機会が多い今日このごろ。

皆さんが普段食べている身近な“米”についても、もちろん例外ではない。

最近はスーパーでも生産者の顔写真がのった商品を見かけるが、その人たちが実際どれだけ苦労して育ててきたかは消費者である私達には知る由もない。

だが、いざそれが簡単か難しいかで考えてみるとしたら、おそらく大勢の人は“難しい”と考えるのではないか。

実際、米はイネからできるわけであるがイネの収量は雑草害によって低下してしまうため、この雑草を処理するのが大変なようだ。

除草剤を使うにも生産コストがかかり、使用量が多いと環境への負担も大きくなってしまう。また、除草剤を使わずに手で除草するにも多くの労働力が必要となる。

そこで、今回は今後実用化が期待されるであろう、雑草の育成を抑制する「開張型」のイネを開発した農研機構の研究を紹介したい。

同研究の詳細は科学ジャーナル「Frontiers in Plant Science」に掲載されている。

開張型イネは、農研機構が過去に構築した野生イネの染色体の一部を体系的に持つ染色体断片置換系統群から、農業に有用な形質を示す野生イネの染色体領域を同定する過程で構築されたものである。

現在栽培されているイネは、野生イネから農業に適した形質を示す個体を選びながら継続的に育てていくことにより確立されたものだ。

開張型イネは葉の枚数が少ない時期(栄養成長期)には葉が横に展開(開張)する特性と、分げつ(イネ科作物の分枝のこと)を増やす性質を持つため、従来型品種よりも地表面を覆うことにより、地面に届く太陽光を減らし雑草の育成を抑制する可能性がある。

また、穂の形成期に入ると開張していた葉が直立する性質を持つため、草型が生育期に応じて変化することで全栽培期間を通じて最適な受光態勢を保つことが可能になる。

同研究では、これらの形質についてついて従来品種(コシヒカリ)と開発した開張型イネの違いについて検証している。

  • 農研機構がおこなった研究のまとめ図

    農研機構がおこなった研究のまとめ図(出典:農研機構)

研究の結果、以下のことが分かったという。

  • 開張型イネは従来品種に比べ水稲群落下の雑草の育成を半分以下に抑制する
  • 開張型イネは太陽光を高い効率で受容でき、初期育成が促進される
  • 開張していた葉は生育後半には直立するため従来品種と同様に収穫できる
  • 収量や穀粒品質、食味にほとんど影響を与えない
  • 現在栽培されているイネに引き継がれなかった有用な遺伝子が、野生イネの遺伝資源の中に眠っている
  • 開張型イネはコシヒカリより雑草の成長を抑制する

    開張型イネはコシヒカリより雑草の成長を抑制する(出典:農研機構)

開張型イネの炊飯米はコシヒカリより柔らかくなる傾向があるものの、コシヒカリよりも高い成長が維持されたこと、また、収量性と炊飯米の食味に関する値については同等であったことから、今後、野生イネ由来である開張型イネは農業現場に広く活用できると考えられる。

  • 開張型イネの収量と米の品質

    開張型イネの収量と米の品質(出典:農研機構)

農研機構では、日本各地で栽培されているさまざまな品種との交配を試みており、将来的には開張型イネ品種を用いて除草剤散布量を削減させた雑草管理体系を確立し、普及を目指すとしている。

また、イネは日本のみならず世界中で栽培されている重要な作物であり、発展途上国では除草を人力に頼っている国も多く、開張型イネはこうした国にも除草労働負荷の低減という形で貢献できる可能性があることから、それらの国で栽培されている品種に対しても雑草抑制機能を付与できるか検討を行っていくとしている。

現在の栽培イネが確立されるまでに失われてきた野生イネの遺伝資源が、こうやって農業の問題を解決する糸口になるかもしれないとはなんとも興味深いのではないだろうか。

普段通る道で何気なく目にするあの植物にも、もしかしたら我々の未来を切り開くヒントとなるような遺伝資源が眠っているのではないか。そう思うとなんだかワクワクする。