生産性を追求したテレワークを
企業向けソフトウェアを開発するアステリアも、コロナ禍で多様な働き方を実践する企業の一つだ。9割以上の社員がテレワークを実施している同社は「緊急避難的なテレワーク」ではなく、「生産性をあげるテレワーク」と定義し、経営・管理者の意識改革やオフィスの再定義を図ってきた。
同社の例で驚くべきはテレワークで生産性を上げている点だ。内閣官房が2021年2月に発表した調査によると、「テレワークの方が生産性が高い」と回答した労働者はわずか3.9%だった。しかし、アステリアが全社員を対象に実施した調査(2021年7月)では、78%が「テレワークの方が生産性が高い」と答えている。
アステリアはいかようにして、社員が満足するテレワークを実現しているのか。代表取締役社長 CEOの平野洋一郎氏はこう答えた。
「出社要因を極力削減し、業務システムはすべてクラウド化している。オフィスを『毎日全員が来て仕事をする場所』から『必要な人が必要な時に来て会う場所』と再定義し、ホームオフィス環境に積極投資した」(平野氏)
出社要因を削減するために、対外の打ち合わせを90%以上オンライン化し、代表電話も外注しチャットツールの「Slack」に連携した。電子押印の対応も進め、派遣社員の契約を変更。社員が自宅で快適に仕事ができるように、月1万5,000円の手当を支給し、家族の検査費用も全額負担した。
テレワークの定着に伴い、東京オフィスは4分の1の広さに縮小し、バーチャルオフィスやサテライトオフィスの活用、さらにはワーケーションも推進するなど、働く場所の多様化を進めた。平野氏は、「『働く』における無理と無駄を徹底的に排除した。結果的に8割以上の社員の生産性が向上し、業績も最高益を更新した」と誇らしげに話した。
「緊急避難的なテレワークをしていると、ぼろが出てきて出社型に戻そうといった動きになる。テレワークをベースとした『生産性の追求』を本気で行う必要がある。そのためにはまず、経営・管理者層の意識と風土の改革が必須だ」(平野氏)
IT先進企業が考える未来の働き方
未来の働き方をIT先進企業はどう見ているのか。ビデオコミュニケーションツール「Zoom」を運営するZVC Japan 代表取締役社長の佐賀文宣氏は、「オフィスへの回帰が進むとともに、リモートワークも継続的に導入するようなハイブリッドな働き方を実践する企業が増えるだろう」と予測した。
続けて、「ハイブリッドな環境におけるコミュニケーションの課題を解決するテクノロジー開発が加速する。ビデオコミュニケーションの民主化が進み、企業や学校、行政問わず、ユーザーが何のツールを使っているのかを意識せず利用するようになる」と考えを示した。
一方、レノボ・ジャパン 代表取締役社長のデビット・ベネット氏は、「アメリカが今直面している課題が未来の日本にも訪れるのではないか」と危機感を示す。
アメリカでは働き方が2極化して問題になっているという。一つは一人ひとりの働き方を個人や部門の裁量に委ねる働き方。もう一つは企業単位で働き方を規定し従業員に対応を求める働き方。アメリカでは「自分の好きなスタイルで仕事をさせてもらえないなら、今の会社を辞めて自由に選択できる会社に転職しよう」と考える従業員が増えており、まさに問題になっているという。
「日本でも働き方の2極化が進むと、優秀な人材が会社から離れてしまうという課題に直面する。自由な働き方を認めることで優秀な人材を確保できる。今こそが分岐点だ」(デビット氏)
そのためには、管理者は性善説に立って従業員を監視しすぎないこと、従業員に幅広い選択肢を提供することが重要だ。デビット氏は「日本ほど自由な働き方を実現できる環境が整っている国はそうそうない。全国各地で高速通信が利用可能で、地方創生に対するニーズも高い。日本にこそ柔軟性の高い働き方をもたらすべきだ」と語った。
同調査結果から分かったように、日本の働き方にはまだまだ改善の余地がある。5年後という少し先の未来に向けての変革が、今、求められている。