経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、ファームシップ(Farmship:東京都中央区)がAI技術を活用して非接触・非破壊でレタスの質量を推定するアルゴリズムを開発し、実際の植物工場で実証実験を行い、実測値に対する高い推定精度を確認したと発表した。

今回の成果はNEDOロボット・AI部が実施中の「人工知能技術適用によるスマート社会の実現」事業の中で、ファームシップと東京大学に委託した「AIによる植物工場等バリューチェーン効率化システムの研究開発」事業の成果となる。

同事業ではファームシップが、豊橋技術科学大学とパイマテリアルデザイン(茨城県つくば市)に再委託し、基本技術を共同で2018年度から2019年度の2年間で構築したものをさらに進めたものだという。

今回開発したAIのアルゴリズムは「育成中のレタスを画像撮影し、その画像データからレタスの質量を推定。実証実験では、推定値と実測した質量値にほとんど差がないことを示した」としている。

今回の実証試験では、20個のレタスが部分的に重なった画像から個々のレタスの矩形(長方形)面積を正確に抽出し、相関係数0.76(完全一致は1、相関関係がなければ0)と高い連動性で個々のレタスの質量推定が可能となった。

  • 育成中のレタスを撮影し、その画像データからレタスの質量をAIに推定させる仕組み

    育成中のレタスを撮影し、その画像データからレタスの質量をAIに推定させる仕組み(引用:NEDO資料)

同実証実験の舞台となった植物工場は、露地栽培に比べて天候に左右されず、また狭い耕地で安定的に生産できることから、近年は野菜の生産量が著しく伸びている。

しかし、生育環境を完全に均一にすることは難しく、栽培している各レタスの成長速度は個体ごとにバラつきが出て、生育状況の効率的な把握・管理が難しいという課題があり、従来のレタスの植物工場では、平均の半分程度の質量のレタスしか栽培できなかった。

今回の実証実験のようにレタスの質量推定値の精度を高めることによって、生育異常品の早期発見や適切な選別による収穫量の増加、そして収穫量の正確な予測などによって、植物工場の生産性向上が可能になるとしている。

NEDOは、「今回はAIを活用し成長速度の遅い個体を早い段階で発見して選別し、適した環境の場所に移し替えることによって成長のバラつきを抑えることができ、より安定的・効率的な生産が可能になった」という。

また「平均的な分布と比較して著しい個体ごとのバラつきの差異を早期に検知でき、生産不良を未然に防ぐことが可能になった」という。そして、「人工知能利用によってレタスの成長度合いを高い精度で推定可能となり、植物工場の事業性が向上する」という。

  • AIを活用し成長速度の遅い個体を早い段階で発見して選別し、適した環境の場所に移し替えることによって成長のバラつきを抑える仕組み

    AIを活用し成長速度の遅い個体を早い段階で発見して選別し、適した環境の場所に移し替えることによって成長のバラつきを抑える仕組み(引用:NEDOの資料)

今回、開発したAIのアルゴリズムは「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を利用するObject Detectionという手法に、質量密度をCNNに学習させることによって、CNNが質量密度を予測できるようにする回帰分析を組み合わせる手法になっている」という。

このアルゴリズムにより「育成中の複数のレタスを同時に、かつ非接触・非破壊で計測でき、栽培途中でも効率的に個体ごとの質量を推定することが可能になった」とのことだ。

今後は、開発中の需要予測技術と成長制御技術を組み合わせることによって「植物工場での高精度な需給調整の実現を目指す」と、ファームシップは説明した。