急速な容量劣化の「Rapid degradation」は最初の数サイクルで進行し、これはマンガン(Mn)を始めとする遷移金属カチオン(陽イオン)が、酸素配位八面体のLiカチオンサイトへ移動する「カチオンミキシング」に起因するものと考えられるという。もう1つの数十サイクルに及ぶ緩慢な劣化の「Slow degradation」は、CrやFeが元の八面体からLi層内の四面体サイト間への移動が蓄積することで、Liの再挿入が阻害された結果として生じたと考えられるとしている。

研究チームでは、今回の成果を踏まえ、課題もあるものの、ハイエントロピー化により、還元分解の抑制という点においては優れた特徴を示すことが示唆されたとしている。

また、CMCNとCMFCNの昇温時の結晶構造について、高温X線回折測定による解析から、前者は1000℃、後者は850℃において、Liと遷移金属が層状に規則化した層状岩塩型構造から、すべての金属元素が同一の結晶学的位置を占有する不規則岩塩構造へと相変態する、規則・不規則変態が観測されており、既存のLiCoO2ではおよそ900℃で熱分解してしまうため、このような規則・不規則変態は観測されておらず、この観測結果は、これらの材料においてハイエントロピー化により高温における相の安定性が向上したことが示唆されるとしている。

なお、研究チームでは今後について、今回の研究で示された化学組成設計の柔軟性と高い熱的安定性を活かし、劣化の原因となる元素の移動を抑制する元素の添加や組成の調整により、さらに高性能で安全、コストパフォーマンスに優れた正極材料の開発につながることが期待されるとしている。

  • ハイエントロピー化により実現した擬四元・五元系酸化物電極材料

    ハイエントロピー化により実現した擬四元・五元系酸化物電極材料 (出所:東北大プレスリリースPDF)