神戸大学と立命館大学は4月8日、原因不明の地磁気極の移動イベントである「エクスカーション」が、従来の説よりも遥かに急速かつ大規模な現象であることを明らかにし、約4万年前には100年足らずでN極が北極と南極の間を往来した証拠などを発見したと発表した。
同成果は、神戸大学の兵頭政幸名誉教授、立命館大学の中川毅教授、オックスフォード大学のビクトリア・スミス教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の地球・環境・惑星科学を扱うオープンアクセスジャーナル「Communications Earth & Environment」に掲載された。
エクスカーションは、地磁気極のN極とS極が南北180度逆転まではいかないものの、少なくとも45度以上、時には最終的に180度近くまで移動し、短期間で元に戻るというイベントであり、一度逆転すると長期間続く180度逆転と比べ、頻繁に起きていると考えられるものの、およそ2000年以内に元に戻ることから証拠が残りにくく、希にしか発見されていないという。
そうしたエクスカーションの1つに、約4万年前に起き、500年ほどの期間だったとされる「ラシャンエクスカーション」があるが、これまでは低解像度の古地磁気記録しかなかったため、詳細がわかっていなかったという。そこで今回の研究では、福井県若狭町の水月湖の湖底から採取されたおよそ7万年にわたる年代測定を可能とする年縞堆積物から得た平均解像度21年の古地磁気データを利用して調査を行ったという。
その結果、ラシャンエクスカーションの中心年代は4万2050年前±120年であることが判明。期間は合計790年、100年以下の期間で地磁気方向振動を5回くり返したことも確認されたほか、そのおよそ2600年後、中心年代3万8830年前±140年(期間550年)に同様の振動を2回くり返す新たなエクスカーションも確認され、こちらは、「ポストラシャン(スイゲツ)エクスカーション」と命名された。
両エクスカーションとも地磁気強度の大幅な減少期に起こり、宇宙線量指標であるΔ14Cの大幅増加も確認されたという。これは、地磁気強度の減少によって遮蔽効果が弱まり、大量の宇宙放射線が地球に入射したことが示されているという。
そして、エクスカーションの仮想地磁気極(ここではN極のみ)のパスは、北極圏から北緯45度以南の北半球低緯度、または南半球高緯度へジャンプし、数十年内に元に戻る移動をくり返すことも判明。地磁気極が最も南に移動したケースでは、北極付近から南極大陸まで45年で到着し、38年で北極に戻っていたほか、最速は南インド洋高緯度への移動で18年だったという。
地磁気極の地理的分布は、概ね年代順に北太平洋、南太平洋、南インド洋、東アフリカを中心とする4か所にクラスターを作っていたことも判明。ラシャンエクスカーションの世界中の火山溶岩記録の地磁気極のほとんどが、これらのクラスターのいずれかに入っており、このことは同エクスカーションは双極子磁場が支配している証拠だとした。
さらに地磁気極の4つのクラスターは、過去3000年間の地磁気の時空分布データを解析して導き出された、外核表面で磁束が集中する4か所によく対応しているという。しかも、これらの集中は数十年~数百年で消長をくり返している。これと同様に、ラシャンエクスカーションは核・マントル境界上の4か所の磁場源が間欠的に順番に卓越し、地表に双極子的磁場を作った可能性があるとするほか、地磁気逆転時にも同じような4つの地磁気極のクラスターが報告されており、4か所の磁場源は下部マントルに固定されている可能性が高いとしている。
なお、今回の2つのエクスカーションの年代データは、今後世界標準として年代決定に貢献することが考えられるという。特に、考古学・人類学分野においては、4~5万年前は我々ホモ・サピエンスの拡散によりユーラシア大陸全域で石器が出土する重要な時代であるため、貢献が期待されると研究チームではコメントしている。