経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、新構造材料技術研究組合(ISMA=Innovative Structural Materials Association、東京都千代田区)が進めてきた「革新的新構造材料等研究開発プロジェクト」の中で、マグネシウム合金開発担当企業・担当大学などが共同開発した難燃性マグネ合金を新幹線車両用の客室床板向けに成形し・接合する技術開発を進め、これを東日本旅客鉄道(JR東日本)が開発中の次世代新幹線試験車両「ALFA-X」の床材に適用し、性能試験を実施したと4月4日に発表した。

  • 難燃性マグネ合金製の新幹線車両用の客室床板

    難燃性マグネ合金製の新幹線車両用の客室床板

難燃性マグネ合金は、「マグネ合金(Mg-Al系合金)にカルシウム(Ca)などを数質量%添加することによって、発火温度を200~300℃上昇させて、大気中での溶解・鋳造を可能とした合金だ」と説明している。実質的には、難燃性マグネ合金の成形加工、接合面での開発技術・ノウハウが蓄積した模様だ。

この難燃性マグネ合金は、材料開発から成形加工し接合するまでの各工程を多数の大学・企業が連携して技術開発を行っている。

産業技術総合研究所(産総研)と長岡技術科学大学が合金開発を行い、三協立山と不二ライトメタル(熊本県玉名郡長洲町)が素形材製作の押出材の開発を担当。日本金属が圧延材を担当し、総合車両製作所(横浜市)、木ノ本伸線(大阪府東大阪市)、茨城県産業技術イノベーションセンターが加工・接合技術、産総研が接合技術、川崎車輛が客室床面の設計・製造・評価をそれぞれ担当した。

  • 難燃性マグネ合金を新幹線車両に適用した企業群

    難燃性マグネ合金を新幹線車両に適用した企業群

ISMAは、最初は経産省の未来開拓プロジェクトとして始まり、途中からNEDOの「革新的新構造材料等研究開発プロジェクト」という大型研究開発プロジェクトとして進められてきた。

2013年度から2017年度までの前半期には、金属材料での強度と延性を両立する性能向上や、熱可塑性樹脂系CFRP(炭素繊維強化樹脂複合材料)の性能を高め、“vehicle”と総称している車体/構造用部品への対応性の見極め、各種の新構造材料を接合する技術では溶融接合や摩擦接合(FSW)を活用した技術開発などを実施してきた。

同プロジェクトの2018年度から2020年度までの後半期には、前半期の各種の研究成果を踏まえてマルチマテリアル化を目指した技術開発や部品化の課題を解決し、“vehicle”の1つとして自動車の車体(ホワイトボディ)のモデル化などの検討を行うなど、革新的新構造材料の実用化・事業化を目指した研究開発を進めてきた。今回の新幹線の客室床面製作でも、4枚の圧延材の側面を摩擦接合して1枚の大型材にし、補強材などをTIG溶接で接合したという。

難燃性マグネ合金は、主に自動車車体向けに開発されたが、新幹線車両への適用例も研究テーマとして並行して進められてきた。

現在の次世代新幹線試験車両「ALFA-X」を含む新幹線車両の客室床板では、主にアルミニウム合金が使用されているが、今回は「ALFA-X」の中間車1両に全長約9m、幅約3mの範囲で難燃性マグネ合金製の客室床板を適用し、2022年3月までの間に高速走行試験を含む実際の運用環境での性能試験を行ったという。

  • JR東日本が開発中の次世代新幹線試験車両「ALFA-X」

    JR東日本が開発中の次世代新幹線試験車両「ALFA-X」

この結果、「遮音性を維持しながら約23%(質量約50kgに相当)程度の軽量化を達成した」という。なお、難燃性マグネ合金製圧延材を鉄道車両に適用した例としては「世界最大級のサイズとなる」と説明する。

開発した難燃性マグネ合金の適用可能な部材などを探索し、新幹線などの高速鉄道車両への本格適用に向けて、輸送機器の軽量化による省エネルギー化を通じて「カーボンニュートラルに貢献する技術開発として応用機会の実現を目指す」という。