国立天文台(NAOJ)とアストロバイオロジーセンター(ABC)、東京大学の3者は、すばる望遠鏡を用いて、誕生してまだ約200万年という若い「ぎょしゃ座AB星」(AB Aur)の原始惑星系円盤の中に埋もれた、木星の約4倍の質量を持ち、主星から約93天文単位の距離を公転し、成長しつつある原始惑星「AB Aur b」の像を、直接捉えることに成功したと発表した。
同成果は、NAOJ ハワイ観測所のセイン・キュリー研究員、ABCの田村元秀センター長/教授(NAOJ 特任教授/東大大学院 理学系研究科 天文学専攻 教授兼任)のほか、NASAなどの研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
年齢が100万年程度で、まだ形成途中の「原始惑星」は、周囲の原始惑星系円盤を構成する物質との識別がしづらく、直接観測は困難とされていることから、これまでそうした原始惑星の観測例は、誕生して約400万年という若い星である「PDS70」を巡る「PDS70b」1例のみに留まっているという。ただしPDS70bは、原始惑星系円盤の「ギャップの中」に位置しており、その周囲から物質が落ち込んでいるとしても限定的な、形成の最終段階にある、進化の進んだ惑星と考えられている。ほかにも原始惑星候補こそあるものの、惑星と円盤との区別が難しいため、惑星と確定された例はまだないという。
そうした中、研究チームは今回、すばる望遠鏡の超補償光学系「SCExAO」(スケックスエーオー)、撮像分光器「CHARIS」(カリス)、可視光偏光装置「VAMPIRES」(バンパイア)を駆使して、AB Aurの原始惑星系円盤の観測を実施。これまでのすばる望遠鏡は2004年にAB Aurの原始惑星系円盤を、2011年にはその円盤内でギャップやリングなどの構造を発見してきており、今回の観測では円盤の中に埋もれた、大量の物質が降り積もりつつあるAB Aur bを撮像により発見することに成功したとするほか、AB Aur bの存在は、ハッブル宇宙望遠鏡の赤外線カメラを用いた追観測でも確認されたとしている。
すばる望遠鏡による偏光観測から、AB Aur bが円盤中の微細構造ではないことが確認されたほか、この惑星に多量の水素ガスが落ち込んでいることも示されたとしている。
研究チームでは、主星の年齢が約200万年と若く、惑星の周囲にはまだ多量の物質が見られるため、AB Aur bは、今まさに生まれつつある原始惑星の最初の観測例と考えられるとするほか、すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡でこれまでに発見された、AB Aurを取り巻く原始惑星系円盤のギャップや渦巻腕などの構造の原因が、惑星による円盤への影響であることを実証したことになるとしている。
なお、AB Aur bは、主星から約93天文単位という遠方を公転しており、太陽系の木星型惑星とは異なる惑星系形成モデルの証拠となると研究チームでは説明するほか、惑星の移動や散乱が起こる間もない早い段階で、主星から遠く離れた位置で誕生した巨大な原始惑星であることから、このような遠方の巨大原始惑星の形成は、太陽系では当てはまる標準モデルや惑星移動・散乱モデルでは説明ができず、むしろ円盤中で自己重力により巨大惑星が形成されるという「重力不安定による惑星系形成」の確たる例と考えられるとしており、今回の研究成果は、惑星形成理論に大きなインパクトを与える知見となるとしている。