関西学院大学とスノーピークは3月28日、両者の包括連携協定のもと展開する「Camping Campus」の効果を数値として測定する第一歩として実証実験を行い、テント空間が個人の創造性を高める可能性があることを発見したと発表した。

同成果は、関西学院大 工学部の長田典子教授(同大学 感性価値創造インスティチュート所長)とスノーピークの共同研究チームによるもの。詳細は、3月25日・26日にオンラインと岩手県立大学会場のハイブリッド開催となった「第17回日本感性工学会春季大会」にて発表された。

関西学院大とスノーピークは2020年から包括連携協定を締結し、大学内構内の共有スペースにテントを設置しキャンプ体験を採り入れる、Camping Campusという取り組みを実施中だという。この取り組みは、学生にリラックスできる空間を提供するとともに、主体的な学びやフラットなコミュニケーションを促進することが目的とされている。

テント利用者や、Camping Campusの活動に参加した学生からは、キャンプ体験が学びやコミュニケーションを促進するとの感想が得られたという。しかし、効果が科学的に確認されたものではないことが課題であったという。

そこで研究チームは今回、関西学院大の小教室(室内条件)と芝生広場(屋外条件)の2か所にテントを設置し、その中、あるいは外で創造性課題を行うことで、テントというキャンプに特有の空間が創造性を高めるのかどうかを検証することにしたという。

実験は2021年10月28日~11月5日に実施され、関西学院大学に通う男子大学生21名(平均21.4歳)が参加。実験条件は、場所2条件(室内:学内の小教室、屋外:芝生広場)×テントの有無2条件(テントあり、テントなし)の4つの空間条件で比較が行われ、創造性課題としては、創造的思考を判断するためによく用いられる測定方法である、一見無関係に見える複数の言葉の関係を答えさせる「遠隔連想テスト」が用いられた。

  • Camping Campus

    (左)関西学院大の芝生広場に設置されたテント。(右)同大学の小教室に設置されたテント (出所:関西学院大Webサイト)

課題は、テントあり条件ではテント内で行われ、テントなし条件ではテントを撤去して行われた。この際、その場所の印象(閉鎖的な-開放的な、不健康な-健康的な、軽い-重い、など18項目)、現在の感情(楽しい、わくわくする、緊張した、など9項目)、およびその場所に対する評価(不快な-快適な、悪い-良い、など5項目)を問う質問紙調査も行われた。

その結果、テント内で行われた課題の成績は、テント外で行った場合よりも高くなることが判明。また、課題を行う空間の印象と課題の成績の関係をもとに分析が実施されたところ、参加者はアウトドア群、インドア群、平常群の3タイプに分類できることがわかったという。

このうちアウトドア群は、課題を行う場所が開放的・健康的・陽気と感じたときに成績が高い傾向があり、実際に室内よりも屋外で課題を行った場合に成績が高くなった。反対にインドア群は閉鎖的・人工的な・重いと感じた場所での成績が高い傾向があり、屋外より室内で成績が高くなったとした。このことは、クリエイティブな作業を行うときには、それぞれの人の特性に合った空間で行うことが大切であることが示されている可能性が考えられるとする。

  • Camping Campus

    (左)屋内、屋外どちらでも点とありの方が正答率が高かった。(右)アウトドア群、インドア群、平常群のそれぞれの傾向 (出所:スノーピークWebサイト)

また、全体的にはテントがある場合に成績が高い傾向が認められており、アウトドア群でもインドア群でも室内でテントがある場合に成績が高い傾向が窺える結果となったとのことで、このことから、テントの用途がそれぞれの群で異なっている可能性が考えられるとしている。これは、アウトドア群の人にとって、テントは室内に居ながらにして自然を感じられるアイテムであるのに対して、インドア群の人はテントを使って室内に自分だけのスペースを形成している可能性が考えられるためとしている。

研究チームでは、なぜテント内で創造性が向上するのか、またそれぞれの群でテントの用途が異なる可能性がある点などは、今後の研究によって確かめる必要があるとしつつも、今回の結果はCamping Campusの取り組みの効果を数的に実証するものであると考えられるとしている。

なお、研究チームでは、今後も条件を統制した上で実証実験を重ねることで、これまで経験的に知られてきたキャンプ体験の効果に科学的な裏付けを提供できる可能性があるとしているほか、テントの使い方が各人の特性によって異なっているとの仮説が正しいならば、特性とテント空間の効用の関係を詳しく調べることで、利用者に寄り添った空間の提供や、新たなキャンプ体験の提案に寄与することが期待されるともしている。