新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、企業や社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)のスピードは加速し、「非対面・非接触型(コンタクトフリー)」が新しいスタイルとして定着しました。OTT(オーバー・ザ・トップ)サービス、オンラインコンサート、eラーニング、ホームフィットネスなど、アプリケーションを利用した新しいストリーミング・サービスが生まれました。また、さまざまな企業が研修会や投資家会議などにおいて、ストリーミングを社内外のコミュニケーションに活用するようになりました。
日本政府も大規模なDXを組織的に推進しており、あらゆる産業においてストリーミング技術の利用が加速しています。GEM Partnersの調査によると、2021年の日本の動画配信市場全体の規模は推計4,614億円、2026年には7,241億円に到達すると試算されており、市場の潜在能力を示しています。
実際にKKStreamでは、APAC(日本とアジア太平洋)地域のストリーミング需要として、2020年初頭から今年半ばにかけて、オンラインチケットのショーの時間数は2倍以上になったことを観測しています。
しかし、動画などのコンテンツ所有者は、オンラインストリーミングによってコンテンツが許可なく共有または転売される可能性を危惧しなくてはいけなくなりました。すべてのストリーミングプラットフォームが効果的なコンテンツ保護メカニズムを備えているわけではないため、オンラインで配信された動画コンテンツは頻繁にダウンロード・拡散され、さらには違法に録画されて転売されることがあります。
KKStreamは、APAC地域において適切なDRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)の欠如により、ビジネスが妨害されるケースを何度も確認しました。DRMによるコンテンツ保護の導入が企業やコンテンツ制作者にもたらすメリットに関するインサイトは次の通りです。
DRM(デジタル著作権管理)とは
デジタル著作権管理とも呼ばれるDRMは、コンテンツへのアクセスや使用を制限することで、著作権のあるデジタルコンテンツを保護するためのシステムです。以前から版権管理が重要な映画配信を行うメディア業界などで使われていましたが、近年動画や音楽をはじめデジタルコンテンツの配信が一般化したこと、また企業のコンプライアンス対策でセキュリティや著作権保護への注目が高まったことで、一般企業でも利用のニーズが増えています。
DRMを構成する要素は次の3つです。
- コンテンツの暗号化:第三者によるデジタルコンテンツへの不正アクセスを防ぐための保護
- 許可制御:デジタル資産の不要な消失を防ぐためのデジタルコンテンツのダウンロードや利用時間、ユーザー権限などの制限
- 透かし技術:デジタルコンテンツの著作権を保護するために、ブランドロゴや社員IDなどの情報を映像に埋め込む技術
DRMが必要とされるオンライン動画コンテンツの例としては、以下があります。
機密性の高いコンテンツを含む社内外のコミュニケーション
- 市場全体または地域のトレーニングセッション
- 全社員参加型会議
- 株主総会
- 投資家会議
商用目的のオンライン動画・ビジネス
- OTTサービス
- オンラインコンサート
- スポーツイベント
- eラーニングコース
- ホームフィットネストレーニング
DRMによってオンライン動画の著作権侵害を防ぐ方法
続いて、DRMによってオンライン動画の著作権侵害を防ぐ方法を紹介しましょう。
コンテンツの暗号化が第一の防御線
アジアにおいて動画業界を代表する業界団体であるAsia Video Industry Association(AVIA)の2021年の調査によると、アジア全体における消費者の24%がインターネットストリーミング機器を使用して海賊版のストリーミングチャンネルにアクセスしていることがわかりました。業界の努力をよそに、海賊版の流通は依然として世界的に深刻な問題といえます。
また、公共のストリーミングプラットフォームは利便性が高い反面、アップロードされた動画は簡単に海賊版化や不正に共有されるため、知的財産権の「デジタル侵害」の可能性があります。
しかし、DRMがあればこのような思わぬ事態を防ぐことができます。例えば、DRMは暗号化技術を利用して動画をアップロードしてエンコードする際に、コンテンツの暗号化を行います。また、DRMは不正なユーザーやデバイスをブロックし、動画コンテンツへの不正なアクセスや拡散を防ぎます。
有料ユーザーの権利確保に役立つアクセス権管理
企業の社内プラットフォーム、オンライン公演、OTT動画プラットフォームなどにおいて、1つのアカウントで複数人が同時にログインしたり、アクセス情報がソーシャルプラットフォームに公開されたりすることがあります。これは、社内の機密情報漏洩につながるリスクがあるだけでなく、コンテンツプロバイダーの利益確保、オンラインストリーミングサービスの運営、視聴者の評価に悪影響を与えます。
しかし、DRM技術を正しく活用すれば、コンテンツへのアクセス権を最初に確認することができます。DRMを適切に実装することで、指定された動画プレーヤーから正規ユーザーだけがコンテンツを視聴できるようになるだけでなく、特定の地域以外での動画視聴を制限するジオブロックや再生機器の制限など、有料ユーザーの権利を保護する機能も提供することができます。
ハリウッドレベルのデジタル保護で最新の安全性を確保
NetflixやDisney+などの有名なOTTプラットフォームは、すでに何年も前からDRM技術を実装しています。ハリウッドでは、ワーナーブラザーズやユニバーサルスタジオを含む6大映画制作会社と映画製作配給会社が、ストリーミングプラットフォームで公開する全ての映像に公認のDRMを使用することを義務化しています。
近年、日本のTELASAや台湾のKKTVなど、APAC地域のOTTプラットフォームも、コンテンツ保護の標準としてハリウッドレベルのDRMを積極的に採用しています。
その一方で、自社でDRM技術を開発・メンテナンスする場合、規格が頻繁に更新されるため、かなりの時間と人手が必要になるだけでなく、さまざまなOSやブラウザに対応している必要があります。最近では、Microsoft PlayReady、Google Widevine、Apple FairPlayなど、消費者利用率が高い主要なOSやブラウザであれば、互換性のあるDRM技術も市場で提供されています。
新型コロナウイルスの感染拡大以来、APAC地域におけるコンテンツスタジオは、数・質と共に急速に成長しています。DRMは、OTTアプリケーション、オンライン公演、オンライン講座のプラットフォーム、さらには企業の映像・音声プラットフォームに有益なだけでなく、知的財産権を効果的に保護することを可能にします。
DRMは、動画コンテンツ業界にストリーミング技術導入へのメリットを提示できるだけでなく、デジタル化が進む社会における新たなビジネスの利益創出に貢献するのです。
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