日立製作所、米ユタ大学、米レーゲンストリーフ研究所の3者は、複数の治療薬の併用を要する2型糖尿病患者の治療薬選択を支援するAIを開発したことを3月25日に発表した。
世界の成人の10人に1人が2型糖尿病と診断されており、重症化に伴う視力低下や腎臓病などの合併症を防ぐため、一部の患者は複数の治療薬を併用して血糖値をコントロールする必要があり、そのような患者に対しては、医師が過去の経験など限られた知見から治療を行っているという現状があった。
また、AIで治療薬の選択を支援するためには、患者のデータを増やし学習させる必要があり、複数の医療機関の患者データを組み合わせるには、AIの専門知識と、複雑な医療データを用いた機械学習モデルの開発に関する幅広い経験が必要だという課題があったという。
このような課題を解決するために、3者は今回、米国ユタ州と米国インディアナ州の電子カルテデータを横断的に分析し、体重、検査値、治療薬などの病態が類似する患者の治療パターンを抽出して学習することが可能なAIを開発し、実証を行った。
今回開発したAIは、患者層別化(病態が類似する患者をグループ化)技術を用いて、複数の地域・施設の電子カルテデータの統合分析を可能にすることで、複雑な治療を要する糖尿病患者に対しても治療薬選択の支援を可能にするもの。
患者層別化技術は、患者の病態に応じた治療選択の傾向を精緻に表現するため、治療の推移を過去のデータから学習し、病態が類似する患者のグループ化を行い、実施された治療薬の種類と効果の関係性をグループごとにモデル化することで、患者の病態に応じた治療効果の予測を可能にするという。
さまざまな治療薬を用いた症例を「病態」に紐づけて学習する患者層別化技術の特長を活用することで、患者の特徴や治療薬の選択肢に幅を持つこれら地域の分散データを病態ごとに統合して分析することが可能となったことにより、これまで難しいとされてきた、複数施設のデータをもとにした治療効果予測を可能にし、症例が少ない複雑な治療の効果予測が可能なAIを実現したとしている。
開発したAIを用いて、3者がユタ州とインディアナ州の過去の糖尿病患者に実施された治療に関する効果予測の性能を検証した結果、2剤以上の併用治療においても、83%以上の患者に治療薬の選択を支援可能なことを確認したとしている。
これにより、複雑な治療を要する糖尿病患者も処方薬の組み合わせごとの効能を確認し、医師と話し合いながら、自分に合った治療方針を決めることができるようになり、糖尿病治療の改善だけでなく患者のエンゲージメント(治療への積極的な関与)やQOL(生活の質)の維持向上につながることが期待されるとのことだ。