宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月16日、太陽や太陽と同じG型スペクトルの恒星の観測データを組み合わせて解析し、これらの星に普遍的に存在するコロナや彩層といった超高温ガスが、星の年齢や活動度によらず共通のメカニズムで加熱されていることを突き止めたことを発表した。

同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS)の鳥海森 国際トップヤングフェロー、NASA/アメリカン大学のウラジミール・アイラペティアン教授の国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

太陽のようなG型スペクトルの主系列星(太陽型星)は、約6000℃の光球面(表面)を持つが、光球面に接する大気下層の彩層が約1万℃、大気上層のコロナでは約100万℃という高温であることが知られているが、そのメカニズムは翌分かっておらず、「太陽大気加熱問題」と呼ばれる。

太陽では、表面の対流運動が磁力線を揺さぶることでその波動が上空に伝わってエネルギーを解放することで大気が加熱される「波動加熱説」や、波動に伴う磁力線同士の微小な爆発により大気が加熱される「ナノフレア説」などが提唱されているが、活発な太陽型星に存在する超高温ガスの形成や、さまざまな波長の放射を統一的に説明できるかどうかは明らかになってなかった。

太陽大気の加熱メカニズムでは、磁場が重要な役割を果たしていると考えられている。もし、ほかの太陽型星で得られる磁場と超高温ガスの関係が、太陽で得られる関係と一致すれば、ほかの星でも太陽と同じように、磁場を介した仕組みで超高温ガスが加熱されていることが推測されることから研究チームは今回、コロナから彩層までの幅広い温度帯にわたって、表面の磁場に対するさまざまな波長の輝線(X線・紫外線・可視光・電波)の相関関係を調べることにしたという。

恒星の輝線は、その波長ごとに作られる温度が異なることが知られていることから、いろいろな波長の輝線を解析することで、さまざまな温度のガスについて理解することができるとされている。今回の研究では、2010年5月から2020年2月までの約10年間におよぶ多波長観測データから、太陽表面の磁束量と、コロナから彩層に相当する輝線として、コロナのX線(100万~1000万℃)と鉄イオン(250万℃)、遷移層の炭素イオン(2万℃)と水素イオン(2万℃)、彩層のマグネシウムイオン(8000℃)の5種類の明るさの変動を調査。

その結果、太陽の自転に伴って太陽面を黒点が横切る際に、表面の磁束量が増えるとともに、それに対応して上空のコロナや彩層が加熱され輝線が強まることや、太陽のコロナから彩層にかけて、どの温度の輝線についても、磁束量が多いほど明るくなる傾向が示されていることが判明したとする。

  • 太陽

    太陽全体の磁束量と5つの輝線の強度。(a)NASAの太陽観測衛星「SDO」により測定された太陽表面の磁束量(日変動)。(b)NASAの太陽観測衛星「SORCE」により測定されたX線(5.2-124Å)、(c)鉄イオン(284Å)、(d)炭素イオン(1335Å)、(e)水素イオン(1216Å)、(f)マグネシウムイオン(2796Å)の放射照度(日変動)。放射照度は太陽から1天文単位の距離での値に変換してあり、空白は主にSORCEの観測停止によるもの (C)Toriumi & Airapetian, 2022 (出所:JAXA ISAS Webサイト)

また、誕生から約5000万年から45億年という、さまざまな年齢および活動度の太陽型星についても調査が行われたところ、どの太陽型星も、コロナから彩層のどの輝線においても、太陽で得られた相関関係の延長線上にあることが確認されたという。

  • 太陽

    太陽観測データと恒星観測データの比較 (C)Toriumi & Airapetian, 2022 (出所:JAXA ISAS Webサイト)

この相関関係や傾きは、星表面の磁場を介したガスの加熱メカニズムを示す重要な指標であり、このデータは、太陽とほかの太陽型星のガスの加熱効率がまったく同じであることを表していると研究チームでは説明しており、このことから、これらの星の超高温ガスは、星の年齢や活動度によらず、共通のメカニズムで加熱されていることが示されたとする。

さらに、今回解析されたすべての輝線について、相関関係の傾きを温度ごとに表したところ、100万℃以上のコロナから1万℃前後の彩層にかけて、傾きが弱くなる傾向にあることも判明。このことは、星表面の磁場に対してコロナが高い加熱効率を示す一方で、彩層ではその効率が弱まり、コロナとは異なる加熱メカニズムが働いていることを示すものであるとするほか、コロナと彩層とでは傾きの値(加熱メカニズムや効率)が異なるにもかかわらず、それぞれの領域ごとに見ると、太陽と恒星で共通の傾き(メカニズム・効率)が示されていることも締めさえたという。

  • 太陽

    太陽の磁束量・放射照度の相関関係(べき乗則)について、傾きαを温度ごとに示されたもの (C)Toriumi & Airapetian, 2022 (出所:JAXA ISAS Webサイト)

今回の研究からは、超高温ガスが加熱されるメカニズムは、磁場が密接に関わっており、太陽と恒星において普遍的であることが示されたが、これらの超高温ガスは、X線・紫外線放射を通じて周囲の惑星に強い影響を与えるため、その加熱放射メカニズムの一端を解明した今回の成果は、惑星・系外惑星の理解にもつながるものだと研究チームでは説明しており、どの太陽型星に対しても、磁束量をもとに輝線の放射強度を決められるようになった今回の成果を活用することで、太陽型星を周回する惑星大気の形成・散逸モデルに対して、そのインプットとなるX線・紫外線スペクトルを提供できるようになり、それにより太陽や恒星だけにとどまらず、惑星気候やハビタビリティの研究につながる展開があるとしている。