東北大学は3月11日、レアメタルを用いない有機レドックス(酸化還元)分子のリチウムイオン電池(LIB)正極材料応用を検討した結果、低分子の有機化合物である「クロコン酸」が4Vを超える高電圧領域で利用できることを見出し、有機リチウムイオン電池の高電圧動作を実証したと発表した。

同成果は、米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校の勝山湧斗大学院生、東北大 多元物質科学研究所の小林弘明助教、同・本間格教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、「Advanced Science」に掲載された。

リチウムイオン電池には、コバルトなどのレアメタルが用いられており、その資源の枯渇などといった観点から、レアメタルフリー正極材料の開発が必要とされている。その候補材料として近年注目されているのが、資源的制約がなく、多彩な材料設計が可能である上に、コバルトなどの無機材料と比べて軽く、容量密度を大きくすることができる有機化合物だという。

しかし、これら有機材料の多くは動作電圧が低いという課題があり、現行のリチウムイオン電池の動作電圧3.7V程度に対し、これまで報告されている有機物正極材料の動作電圧のほとんどは3V以下であったことから、電池の高性能化に向け、高電圧で動作可能な有機化合物材料の開発が求められていた。

そこで研究チームは今回、高い容量を示す低分子有機物の中から高い反応電位を示す材料を探索し、その中の1つとしてクロコン酸に着目することにしたという。クロコン酸は古くから知られている低分子有機化合物の1つで、炭素同士が五角形の形で結合し、その炭素それぞれに酸素が結合した分子構造をしており、一般的にレドックス可能な炭素-酸素結合を5つ有している。

またクロコン酸は、その1分子当たり最大で4個の電子を貯蔵することが可能であり、この4電子レドックス反応を利用できれば、理論容量は754mAh/gと、現行のコバルト系のLiCoO2と比較して4倍以上となるとする。

これまでクロコン酸を二次電池正極に用いた研究例はあるが、5つある炭素-酸素結合のうち2つまでしか利用されておらず、またそのレドックス電位は2V以下と低い動作電圧を示すにとどまっていたという。

今回の研究では、第一原理計算を用いて残りの炭素-酸素結合のレドックス電位を調査。その結果、別の2つの炭素-酸素結合で4Vを超えるレドックス電位を示すことが見出されたとした。このレドックス反応を利用することができれば、現在のリチウムイオン電池に用いられる無機化合物材料や近年報告されている有機分子材料、有機ポリマー材料よりも高いエネルギー密度の二次電池を開発することが可能だと研究チームでは説明するほか、実際にクロコン酸をリチウムイオン電池の正極に利用することで、4Vでの放電が繰り返し進行することが確認されたという。

クロコン酸をはじめとする低分子有機化合物は、化学修飾が容易で多彩な分子設計が可能だが、現時点でクロコン酸の持つ高い理論容量(754mAh/g)を活かすことには成功しておらず、電池設計にも課題があると研究チームでは説明している。ただし、将来的には、有機材料ならではの分子設計により、高容量と高電圧を両立でき、現行のリチウムイオン電池を大きく超える高エネルギー化が期待できるとしているほか、有機化合物正極は全固体電池やマグネシウム電池、ナトリウムイオン電池などリチウムイオン電池以外の次世代電池へ利用することも可能であるため、再生資源を用いたレアメタルフリーで安価な次世代二次電池として有機二次電池のさらなる可能性が期待されるとしている。

  • 有機リチウムイオン電池

    (上)第一原理計算により見出されたクロコン酸の多電子レドックス反応。(下)リチウムイオン電池正極材料としての位置付け (出所:東北大プレスリリースPDF)