愛媛大学は3月10日、118種類の原子すべてをまとめた周期表に記載されていない、仮想的な原子からできているかのように振る舞う物質を発見し、その物質中では質量がゼロの特殊な電子が光速に近い速度で動き回っていることも発見したと発表した。
同成果は、愛媛大大学院 理工学研究科の内藤俊雄教授らの研究チームによるもの。詳細は、結晶学に関連する全般を扱う学術誌「Crystals」にオンライン掲載された。
現在の科学では原子番号1の水素から同118のオガネソンまで、118種類の原子の存在が確認されており、それらはすべて周期表に記載されている。研究チームは、さまざまな分子からなる伝導性物質や磁性体などを長年にわたって研究してきており、これまでも、紫外線を当てたときだけ金属に変わる有機物など、ほかの物質には見られない機能を持った新しい物質を発見してきたという。今回の研究もそうした一連の流れとして、新しい物質を調べている最中に、118種類のどれでもなく、周期表に記載されていない“仮想的の原子”からできているかのように振る舞う硫黄とセレンの中間的性質を示す原子を発見したという。
この硫黄とセレンの中間の性質を示す原子は、自然界では通常あり得ないものであり、実験と理論の両面から詳しく調べた結果、現在の量子化学では説明がつかず、その概念を拡張することで説明できることが判明したという。
ちなみに、この物質の合成は古く、1991年まで溯るというが、それ以降、中断を挟みつつも、硫黄とセレンの中間的性質を示す原子の研究が続けられ、今回、ようやく独自の新たな理論を構築して証明することに成功したという。
また、特殊な原子であることに合わせるように、その周囲を取り囲む電子も変わっていることも判明したという。物質の性質を決めているのは、原子核の陽子と中性子の数に加え、その原子核の周囲に存在する電子の数であり、電子は軽いながら1個あたり約10-30kgほどの質量を有している。質量を有しているため、どれだけ速く移動できたとしても、光速には到達できないとされるが、今回発見された物質には、電子に変わって「質量がない粒子」が存在していることが判明し、その性質を決めていることが示されたという。
質量がないということは光子と同じであり、身軽に動き回ることができることから、この“質量ゼロの特殊な粒子”は光速に近い速度でこの物質中を走り回っていることとなり、この特性を活用すれば、例えば半導体デバイスでは、超高速かつ超低消費電力のコンピュータを実現できる可能性が考えられるとする。また将来性や有望性が指摘されながら、適した物質がないために今もって実現していない、遠赤外通信などにも使える可能性があるかもしれないとしている。