熊本大学先進マグネシウム国際研究センター(MRC)は3月8日、東京都千代田区内で記者会見を開催し、高強度で熱伝導率が高く、発火温度が高いなどのマルチ機能を持つ「KUMADAIマルチ機能マグネ合金」を開発し、その応用開発に向けて体制づくりを進めていると発表した。

KUMADAIマルチ機能マグネ合金は、MRCのセンター長を務めている河村能人教授の研究グループが開発したもの。学術的な内容は、3月15日にWebで開催される日本金属学会春期講演大会の場で、公表する予定という。

今回開発した「KUMADAIマルチ機能マグネ合金」は「強さを示す降伏強さが345MPa以上で引っ張り伸びは5%以上と成形加工性がよく、熱伝導率は121W/mK以上で、発火温度は1238K(965℃)と高く、腐食速さは1mm/年と遅く、密度は1.81g/cm3 と軽いなどの多彩に高性能な合金」と説明。

河村教授は、ライバルとなる高強度アルミニウム合金(通称、超々ジュラルミン)以上の強さを持ち、発火温度はFAA(米国連邦航空局)の燃焼試験が求める火炎温度以上の“不燃性”を示し、腐食性はこれまでの高腐食性マグネ合金並みと「マルチタスクを満たす多機能合金」という。

このマルチ機能マグネ合金は、鋳型に鋳造して丸棒形状などの素材形状にした後に、熱処理を加えて、合金組織内に「C15型化合物」という微細な析出物を析出させ、その後に押し出し加工によって、基本素材形状の丸棒上に加工する。

この鋳造した資材形状に熱処理を施すと、微細な板型形状のC15型化合物が多数析出し、「これが高強度化に貢献している」という。また、「この板型形状のC15型化合物は厚さが0.008μm(ミクロン)μmと非常に薄い」という。なお、Mg合金の母相は6方晶の緻密な構造が基本の結晶構造になっている。

マルチ機能マグネ合金の組織は、母相のマグネ成分が主な部分では、添加したほかの元素が「C15型化合物」をつくって析出するため、「母相内はマグネ元素以外があまり固溶していないので、成形加工しやすい相になっている」と解説する。この「C15型化合物」は元素がA2Bという組成の化合物になっている。

また、母相内に固溶していた他元素が「C15型化合物」として析出する結果、マグネ母相内には熱伝導を邪魔する成分がかなり減ることから、同マルチ機能マグネ合金は熱伝導率が高くなると解説する。

さらに、開発したマルチ機能マグネ合金を押し出し成形加工すると、「マグネ組織は微細粒化し、動的再結晶という現象が起こって母相は微細晶化し、高強度化などが起こる」と解説する。

河村教授は、「MG Port」というベンチャー企業を2021年3月に熊本大構内に設立済みという。現在、資本金は設立時の120万円のままだ。同社の代表代取締役には、原豊氏が就任している。原代表代取締役は、開発したマグネ合金の用途開発を進めるために、マグネ合金系の非鉄企業などと話を進めている模様だ。

  • 河村能人教授(右)とMG Protの原豊代表代取締役(左)

    河村能人教授(右)とMGProtの原豊代表代取締役(左)