ロシアとウクライナの戦争に起因する緊張の高まりに関して、台湾の半導体市場調査会社であるTrendForceは、ロシアが台湾のファウンドリ産業における主要市場の1つではないため、ロシアに対する制裁措置が強化されても、その影響は限定的であるとの見方を公表した。ただし、戦争による最終製品の販売が減少することによって、間接的にメーカーの部品需要が減退し、ファウンドリのウェハ投入量が減る可能性は否定できないともしている。

TrendForceでは、今回のロシアによるウクライナ侵攻の影響をもっとも強く受けるのはスマートフォン(スマホ)業界と見ている。例えば2021年に当該地域で販売されたスマホ上位3社は、Samsung Electronics、Xiaomi、Appleで、その年間販売台数は約4500万台であったという。また、侵攻開始以降、ロシアのルーブルの為替レートが急速に変化、その結果、Apple iPhone 13 Pro 128GB品のロシアでの希望小売価格は50%上昇したという(2022年3月4日時点でAppleはロシアでの製品販売を停止)。

TSMCがロシア企業から製造委託を受けた製品の製造を中止

ロシアは台湾のファウンドリ業界の主要な市場ではないが、ロシア企業MCST(Moscow Center of SPARC Technologies)が設計したElbrusブランドのマルチコアプロセッサは、TSMCによって長年にわたって製造されてきた経緯がある。英国の防衛・軍事情報サービス企業Janesによると、ロシアの軍事およびセキュリティサービスは、一部のコンピューティングアプリケーションでElbrusチップを使用しているという。

米バイデン大統領のロシア制裁の一環で、Intelをはじめとした米国を中心に半導体メーカー各社がロシアへの半導体輸出をやめたが、TSMCも同様で、米ワシントンポスト紙によれば、Elbrusの製造と出荷をすでにやめたという。この動きを受け、中国の半導体企業が漁夫の利を得て利益を得る可能性があるという噂が一部にある。ただし、TrendForceは、中国ファウンドリがElbrusチップの製造に必要な1X nmプロセスを提供できるとしても、製造委託先をTSMCから中国ファウンドリに変更するために必要な再設計および検証プロセスには少なくとも1年はかかると見ており、MCSTがElbrusの製造を中国ファウンドリにすぐに変更したとしても、中国の半導体業界は短期的にこれらの注文に応じることはできないと考えられるとしている。

ロシアのウクライナ侵攻が長引くにつれ、物流の混乱と価格の高騰が進む可能性がある。そのため、台湾としても当然、国内の半導体企業各社ともに必要な部材を在庫として備蓄していると想定され、TrendForceの調査でも、そうした企業のほとんどが現状、健全な在庫レベルを実現しているとする。ロシアとウクライナは半導体製造に必要な材料の唯一の供給国ではなく、台湾企業は中国やその他の国々からも材料を調達していることから、ロシアのウクライナ侵攻が、即座に台湾の半導体企業に目立った在庫調達や生産のボトルネックを引き起こすことはないとTrendForceでは見ている。