Googleは3月1日、オンラインで記者会見を開き、日本のプログラミング教育を支援するカリキュラム「CS First」を公開したと発表した。

  • 「CS First」のイメージ

    「CS First」のイメージ

まず、文部科学省初等中等教育局 学校デジタル化PT 情報教育振興室 室長補佐の大塚和明氏は、学校におけるプログラミング教育に関して「新学習指導要領において、小・中・高等学校の共通のポイントとして言語能力と同様に情報活用能力を『学習の基盤となる資質・能力』と位置付けている。また、学校のICT環境整備とICTを活用した学習活動の充実に配慮することも明記している」と説明する。

  • 文部科学省初等中等教育局 学校デジタル化PT 情報教育振興室 室長補佐の大塚和明氏

    文部科学省初等中等教育局 学校デジタル化PT 情報教育振興室 室長補佐の大塚和明氏

2020年度の学習指導要領改訂に伴い、小学校におけるプログラミング教育が必修化されており、GoogleではGoogle.orgを通した特定非営利活動法人である、みんなのコードの教材開発および教員研修への支援や、文部科学省が協力企業と連携した総合的な学習の時間におけるプログラミング教育を推進する「みらプロ」へのAIプログラミングのツールやカリキュラムの提供などを通して、子どもたちが性別や家庭環境に関わらず、公教育の中でプログラミング教育を受けられるよう取り組んでいる。

  • 新学習指導要領の概要

    新学習指導要領の概要

みんなのコードがGoogle.orgの支援のもと調査した、国内の学校教育における「プログラミング教育実態調査」によると、7割を超える子どもたちがプログラミングを楽しんでいるという好意的な結果が出ているほか、プログラミング教育の経験可否が、その後のキャリアにも影響する可能性があることなどが明らかになったという。

好意的な反応が得られている一方で、コロナ禍での休校や補習の対応、端末の整備など、通常のカリキュラムに加えて学校、教員への負担が増えている中、プログラミング教育を小学校の授業で取り入れることが難しいという状況も発生している。

教員向けの調査によると「教員の専門性の不足」「指導・授業展開の難しさ」「教材・資料の不足」がプログラミング教育実施に向けての課題として挙げられており、環境の整備やさらなる支援が必要とされている実態も判明している。

小学校におけるプログラミング教育の実施に向けて、文部科学省はプログラミング教育の手引や、小学校プログラミング教育に関する研修教材を公開している。これらにはプログラミング言語の指定はないものの、研修教材として Scratch(MIT Media LabのLifelong Kindergartenグループとの協力によるScratch Foundationのプロジェクト)が取り上げられていることもあり、多くの学校ではScratch のようなビジュアル型のプログラミング言語でプログラミング教育に取り組んでいる、もしくはこれから取り組もうとしているという。

そこで、Googleでは小学校におけるプログラミング教育実践のさらなる支援に向けて、Scratch を活用したコンピュータサイエンス教育のカリキュラム、CS Firstを日本向けに公開。CS Firstは、2014年に北米で開始し、これまで100以上の国の200万人以上の子どもたちと、7万人以上の教員が活用している。

  • CS Firstの概要

    CS Firstの概要

今回、公開した日本向けの CS Firstでは、日本のプログラミング教育に即したカリキュラムを新たに開発した。CS Firstは、小学校3年生から6年生向けに設計した使いやすい無料のコンピュータサイエンス教育カリキュラム。

Google コンピュータサイエンス教育 プログラムマネージャの鵜飼佑氏は「ブラウザ上で誰も無料で利用を可能とし、Google Workspace for EducationもしくはCS Firstのアカウントでログインし、進捗確認もできる」と述べた。

  • Google コンピュータサイエンス教育 プログラムマネージャの鵜飼佑氏

    Google コンピュータサイエンス教育 プログラムマネージャの鵜飼佑氏

教員は同カリキュラムで、CS Firstウェブサイト内のScratchコードエディタの特別バージョンである、Scratch for CS Firstを使って子どもたちにプログラミングの基礎を教えることができる。Google Workspace for Educationのアカウントを持っている場合は、Google Classroomからのクラスの取り込みも行える。

  • CS Firstの教員向け機能

    CS Firstの教員向け機能

コースは「Scratch for CS Firstでプログラミングをはじめよう」「私たちのまちのよさをプログラミングで広めよう」の2つを用意した。

  • 日本向けに2つのコースを用意

    日本向けに2つのコースを用意

Scratch for CS Firstでプログラミングをはじめようは、主に3年生以上のScratchを触ったことのない小学生が対象。自分のアイデアを取り入れたプロジェクトを作りながら、Scratchの基礎に加えて、プログラミング的思考の中心となるようなプログラミングの基礎(順次、繰り返し、条件分岐、イベントなど)を学べるコース。

  • 「Scratch for CS Firstでプログラミングをはじめよう」の概要

    「Scratch for CS Firstでプログラミングをはじめよう」の概要

私たちのまちのよさをプログラミングで広めようは、主に5年生以上のScratchを触ったことのある、もしくは上記のコースを修了している小学生が対象。全体で12時間程度の総合的な学習の時間における探究的な学びを通して(指導案)、3~6時間程度で、自分のまちの魅力を紹介するプログラム(まちの紹介アニメーション、クイズ、地図アプリ)を開発し、プログラミングを表現の手段として用いることができるコースとなっている。

  • 「私たちのまちのよさをプログラミングで広めよう」の概要

    「私たちのまちのよさをプログラミングで広めよう」の概要

CS Firstの公開に先立ち、先行して体験した山梨県甲府市立大国小学校の和地勲教諭は「筋道を立てて考えたり、ゴールが何かということを先読みして考えたりすることは大切なことだ。ただ、子どもたちにとってはハードルが高いものであり、例えば算数の文章題では目に見える数字にだけ気をとられ、何を求めようとしようか分からなくなってしまうことなどがある。実感を伴いながら、筋道を立てたり、先を見通したりすることを身に着けてほしいと考えたときに、プログラミング教育をきっかけに取り組みをスタートした」と話す。

  • 山梨県甲府市立大国小学校の和地勲教諭

    山梨県甲府市立大国小学校の和地勲教諭

また、同校の早川薫教諭は「子どもの反応が良く、興味を持ってくれた。プログラミングを教えることに不安を抱えていたが、CS Firstは事前にカリキュラムが組み込まれていたため、分かりやすく教えることができた。子ども、私にとっても良い機会だった」と述べていた。

  • 山梨県甲府市立大国小学校の早川薫教諭

    山梨県甲府市立大国小学校の早川薫教諭

CS Firstの公開にあわせ、実際に小学校でのプログラミング教育の中で活用したい教員向けに「CS Firstを活用した、小学校でのプログラミング教育実践」のオンライントレーニングを、無料のデジタルスキルトレーニング「Grow with Google」の取り組みの一環として用意。

小学校におけるプログラミング教育必修化の背景、CS Firstの使い方、総合的な学習の時間における効果的な活用方法など、幅広く紹介している。また、特定非営利活動法人のタイプティーは、CS FirstやScratchをプログラミングにおいて活用している、もしくはこれから活用されたい小中学校の教員の方を対象としたオンラインコミュニティも設立している。