名古屋大学(名大)、フジミインコーポレーテッド、旭精機工業、あいち産業科学技術総合センター(ACIST)の4者は2月28日、新たな超硬合金粉末を開発し、金属3Dプリンタに適用して内部構造を有する超硬合金の金型の開発に成功したと発表した。
同成果は、名大の小橋眞教授、同・高田尚記准教授、同・鈴木飛鳥助教らを中心とした共同研究チームによるもの。また、愛知県および公益財団法人科学技術交流財団による産学官連携の研究開発プロジェクト「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIII期」のうち、「革新的モノづくり技術開発プロジェクト」の研究テーマの1つである「積層造形技術の高度化と先進デザインの融合による高機能部材の創製」において行われた。
金属を用いた複雑形状品の作製技術としては、金型を用いた「深絞りプレス成型」が用いられている。同成型方法では、高精度な製品を高速で成形するため、金型に超硬合金が用いられている。しかし、超硬合金を加工することは容易でなく、複雑な形状の作製が難しいという課題があった。
また製品の品質向上、低価格化などへの要求を満たすためには、プレス成形中の金型の効率的な冷却や、金型の温度や荷重の状態をインライン計測し、工程の制御に反映することが重要視され、金型内部に冷却配管やインライン計測用センサの取り付けが求められるようになってきているため、内部にも複雑な構造が求められるようになってきているという。
こうした超硬合金の金型製作の複雑化に対する解決策の1つとして近年、期待されるようになってきたのが「レーザ粉末床溶融結合」(LPBF)方式の金属3Dプリンタだという。金属3Dプリンタは、金属の粉末をレーザ光線で溶かし固めて一層ずつ積み重ねて所望の形状を造形するもので、今回の研究開発では、金属3Dプリンタに適した超硬粉末材料およびその造形技術の開発を進めることで、目的の内部構造を有する新規な超硬合金製金型の開発を行うとともに、開発された金型を製造ラインのプレス成形機に取り付け、連続成形試験が実施されたとする。
LPBF方式で造形するために必要な、金属3Dプリンタに適した超硬合金特性の粉末の開発を担当したのはフジミインコーポレーテッドで、最適な原材料の調合を行うとともに、粒度分布、粒子密度、流動性の調整を実施したほか、名大およびACISTとともに、レーザ照射をはじめとする造形条件や造形後の熱処理方法について検討を行い、最適条件を導き出したとする。
さらに、フジミインコーポレーテッドでは金属3Dプリンタを用いた造形試験を進め、造形中の亀裂などの発生を防ぎつつ、さまざまな形状の超硬合金製の造形物を得ることを実現。高密度・高硬度な超硬合金製の金型を作製することが可能となったことで、金型の長寿命化が期待できるという。
また、旭精機工業が、そうして得られた最適化原料、条件を基にして金属3Dプリンタにより造形された金型の表面加工および、詳細な品質確認などによる研究開発を進め、内部にセンサや冷却配管を設置できる、複雑な空間構造を内蔵する超硬合金製の深絞りプレス成形金型を作製することに成功。実際に、この金型を製品製造ラインのプレス成形機に取り付け、連続成形試験を行ったところ、使用後の金型に破損などは見られず、通常通り使用可能であることが確認されたほか、加工した製品の品質にも問題は見られず、開発された超硬合金製金型が製品製造に適用可能であることが示されたとする。
この成果により、これまで困難だった、超硬合金の金型内部の所望の位置に、冷却や計測などを目的としたセンサを配置することができるようになり、製造工程のIoT化も進めることができるようになると研究チームでは説明しており、製品の成形を行いながらインラインで金型の圧力や温度計測を行って成形工程に反映させ、稼働状況の把握による製品精度の向上につなげることも可能となるとしている。
なお、研究チームでは、ケースに頑丈さが求められるリチウムイオン電池向け製品などでは、製品の大型化や高精度化が進み、大型構成部品の精密成型が求められるようになっており、今回の成果は、そうした要求に応えるものとなるとしている。そのため、今回の技術を活用することで、自動車産業をはじめとする愛知県の主要産業において、製品の性能向上、軽量化、製造品質の向上など、多くのメリットが創出されることが期待されるとするほか、超硬合金が多用されているほかの金型や工具においても、幅広い応用が期待されるとしている。