東芝は2022年2月24日、同社の共創センター「Creative Circuit」に「映像認識AI」を用いた機能を実装し、体験ショールームとして公開することで、パートナー企業に先端技術を体感してもらう取り組みを開始すると発表した。

  • 2021年2月にオープンした東芝の共創センター「Creative Circuit」、出所:東芝

同日には、記者向けの事前説明会が開かれ、東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 メディアAIラボラトリー 上席研究員の柴田智行氏によって、今回の取り組みのねらいや4つの機能の詳細などが説明された。

東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 メディアAIラボラトリー 上席研究員 柴田智行氏

今回の取り組みの趣旨について、柴田氏は、「AIなどの先端技術を早期に社会実装していくためには、組織や専門性の壁を越えた共創のアプローチが重要になる。しかし、技術に対する知見が無ければ先端技術の利用イメージが湧かないものだ。最新の技術をいち早く体験し、利用イメージを共有できる場が必要と考え、今回の取り組みをスタートした。体験ショールームであると同時に、今後は課題解決に必要なアプリケーションを生み出す議論の場所にしていきたい」と語った。

AIの活用を検討している企業・団体は、Creative Circuit内に設置したカメラの映像をAIで解析する映像認識AIをベースとした「密接検知」、「不審行動の検知」、「不自然な姿勢の検知」、「個人認識」の4つの機能を実際に利用できる。

密接検知は、混雑する場所や密集度合い、会話をしている人の距離を可視化する機能だ。物体検出技術によりセンシングした、人物の位置や各人物の身体の関節位置、人同士の距離と身体の向きから、密接状況を解析することができる。

不審行動の検知は、部屋の中で何かを探してウロウロしたり、他社のサポートを求めてキョロキョロしている人を検知する機能だ。サポートが必要な人物を早急に発見するために、物体検出・追従技術によりセンシングした人物の移動軌跡や、各人物の身体の関節位置の動きから、困惑・不審な行動を検知することができる。

  • 「密接検知」と「不審行動の検知」機能を利用した様子、出所:東芝

不自然な姿勢の検知は、倒れたり、うずくまったりする人を検知する機能だ。救護が必要な人物を早急に発見するために、物体検出技術によりセンシングした、人物の位置や各人物の身体の関節位置から、不自然な姿勢の人物を検知できる。

個人認識は、マスクをしても個人を識別できる機能だ。顔認識技術により、登録した1枚の顔写真を基に人物を特定することができる。

  • 「不自然な姿勢の検知」と「個人認識」機能を利用した様子、出所:東芝

Creative Circuitでは4つの機能を利用して、AIによる映像検知の精度・速度や必要なマシンスペックの検証を行ったり、自社での活用を想定した実証実験などを行ったりすることが可能だ。

また、コロナ禍で直接会って議論する機会も失われつつある昨今の状況に活用できるコンセプト機能として、「コミュニケーション活性度モニタリング」も体験可能だ。同機能は、密接検知機能を活用しコミュニケーションの状況を可視化するもので、人と人との密接状態を検知すると同時に、コミュニケーション活性度を算出 ・提示できる。

「過剰な密状態を防止し、コミュニケーション活性化を支援する機能も提供することで、共創活動の促進につなげたい」と柴田氏。

  • 「コミュニケーション活性度モニタリング」では、コミュニケーションの活性化度合いとともに、特定の人物の行動(アクティビティ)を分析することもできる、出所:東芝

東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 メディアAIラボラトリー 室長 小坂谷達夫氏

今後も、2021年9月に発表された「質問応答AI」をはじめ、Creative Circuit内では東芝グループが開発したAI技術や先端技術が追加実装される予定だ。また、Creative Circuitに実装され、活用の知見がたまった機能や技術は、いずれは東芝デジタルソリューションズが提供するAI分析サービス「SATLYS」にも実装を進めていくという。

だが、東芝 研究開発センター 知能化システム研究所 メディアAIラボラトリー 室長の小坂谷達夫氏は、共創パートナーの課題解決を重視するスタンスだ。

小坂谷氏は、「当社の技術の製品化は念頭に置いていない。あくまで、Creative Circuitを利用する企業の課題解決につながる知見や技術を発見できる場としたい。そのため、今後実装する機能も、共創活動を促進する機能であることが前提だ。基礎研究の議論もありえるだろう」と説明した。