東京工科大学は2月9日、唾液によるインフルエンザウイルスの特異的IgA抗体測定の有用性を示すことに成功したことを発表した。

同成果は、工科大 医療保健学部 床検査学科の横田恭子教授らの研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックで流行が抑えられているインフルエンザだが、その年にどの型が流行するのかといった正確な予測は難しく、またゲノムRNAの遺伝子変異頻度が高いため、ワクチンによる感染防御効果は限定的となっている。

インフルエンザの診断の多くは鼻咽頭ぬぐい液でなされ、粘膜で誘導される抗体も鼻洗浄液を使って測定されているが、この手法では、大量の生理食塩液を使うため、採取が容易ではないほか、抗体を測定するには鼻洗浄液を100倍程度濃縮する必要があるといった手間がかかっていた。一方、新型コロナの感染では唾液中にウイルスのみならず特異的IgAやIgG抗体が検出されていることから、唾液はインフルエンザを含めたさまざまな上気道感染の診断、あるいは経鼻ワクチンの効果判定のための有用な検体になると期待されるようになっていることから、今回、研究チームでは感染前から唾液を保存していた研究協力者十数名がインフルエンザに罹患し、一定の検体数を得たことを受け、唾液中のインフルエンザに対する抗体測定の有用性の評価を行った。

具体的には、7例の検体について、感染前、感染後10日前後(感染初期)および1ヶ月後(感染後期)の時点における唾液中のIgGおよびIgA抗体の量を測定したところ、IgAは感染初期で70倍近くに増加し感染後期には10倍程度に減少したのに対し、IgGは感染初期よりも感染後期に増加率が高いことが示されたとする。一方、通常の皮下接種ワクチン接種前後の唾液ではこのような特異的IgAの増加は認められなかったという。

  • インフルエンザ

    インフルエンザ罹患者の唾液中抗体価の変動(左は測定値、右は抗体増加率) (出所:東京工科大Webサイト)

また、濃厚接触者でインフルエンザを発症した2名および無症状1名の検体を解析したところ、無症状者では直前のワクチン接種により血中IgGが高値を示しており、唾液中IgAおよびIgG抗体は発症者2名と同程度に検出されたという。感染前の無症状者の唾液が保存されていなかったため、このIgA抗体が感染由来かどうかは不明であるものの、濃厚接触時の不顕性感染あるいはワクチンによる感染防御の可能性を示唆するものといえるとしている。

  • インフルエンザ

    3例の濃厚接触者の血中抗体(グラフ左)および唾液中抗体(グラフ中央/左) (出所:東京工科大Webサイト)

研究チームでは、今回の研究から、唾液を使った粘膜抗体測定が有用であることが示されたことから、今後、そのほかのコロナウイルスも含めた上気道感染ウイルスに対する宿主の粘膜抗体応答が、唾液を用いて簡便かつ大量・網羅的に解析できる手法の開発につながることが期待されるとしている。