長崎大学は11月1日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とインフルエンザウイルスに重複感染すると、肺炎が重症化・長期化する可能性があることを示したと発表した。

同成果は、長崎大 感染症共同研究拠点の木下貴明研究員、同・安田二朗教授、長崎大 原爆後障害医療研究所の西弘大助教、帯広畜産大学の渡邉謙一助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

インフルエンザウイルスは、SARS-CoV-2と同様に飛沫感染する呼吸器感染症の病原体であり、どちらもパンデミックを起こすなど、類似する特性を持つ。インフルエンザは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックが起きるまでは、世界中で毎年季節性に流行が報告されていた。

しかし、2020-2021シーズンの流行時期(冬~初春)は、世界的に患者数が激減したことが確認されている。その理由として、世界的な人・ものの移動が制限されたこと、世界規模でのマスク着用の浸透、手洗い・消毒の励行、密を避ける行動などといった新型コロナ対策が功を奏したためと考えられている。

加えて、新型コロナに感染したことによるウイルス干渉を理由に挙げる専門家もいる。ウイルス干渉とは、特定のウイルスに感染すると、ほかのウイルスの感染/増殖が抑制されるという現象で、場合によっては、双方のウイルスが干渉しあい、どちらも増殖が抑制されることもあるという。

こうした背景から今回、研究チームは新型コロナとインフルエンザウイルスが同一個体に同時感染することが可能なのかということ、ならびにもし重複感染した場合にどのような病態となるのかということを調べることにしたという。

具体的には、双方のウイルスに感受性があり、肺炎症状を呈するハムスターを用いて検証実験を実施。その結果、新型コロナとインフルエンザはそれぞれ単独の感染で肺炎を引き起こすが、インフルエンザは感染4日後、新型コロナは感染6日後にもっとも重篤な肺炎像が示されたほか、同時感染させた場合では、それぞれの単独感染時よりも肺炎が重症化し、さらに回復も遅れる(長期化する)ことも明らかになったという。

また、感染後の肺における双方のウイルス量を調べたところ、どちらのウイルスも単独感染時と重複感染時で差がないことも確認されたとするが、肺の組織病理解析の結果、肺において双方のウイルスは同種の組織・細胞に感染するが、同一の場所では共感染していないことも確認されたという。この結果について研究チームでは、双方のウイルスは個体レベル、臓器レベル(肺)ではウイルス干渉を起こさないが、細胞レベルでのウイルス干渉は起こり得るということが示唆されたとし、両ウイルスの重複感染と同時流行が起こり得ることがわかったとしている。

インフルエンザの流行が今冬も起こるのかどうかは不透明ながら、新型コロナも終息したとは言えない状況であり、研究チームでは、油断せず同時流行の可能性もあると考えて対策を採るべきだと警告している。

  • 新型コロナ

    (左)肺のCT画像。左列からA型インフルエンザ、SARS-CoV-2、両ウイルスの同時感染。(右)肺炎の重症度。緑:A型インフルエンザ、青:SARS-CoV-2、赤:両ウイルスの同時感染 (出所:長崎大Webサイト)