慶應義塾大学(慶大)、アヤボ、茨城大学の3者は1月21日、気相中で生成した「白金ナノクラスター」を「マリモカーボン」に直接担持して作製した燃料電池触媒の最大電力密度が9.6W/mgPtとなり、標準的な電極触媒より優れた発電性能を示すことを明らかにしたと発表した。
同成果は、慶大理工学部の中嶋敦教授、アヤボの塚本恵三代表取締役社長、茨城大大学院 理工学研究科(工学野)の江口美佳教授、物質・材料研究機構の安藤寿浩博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、化学全般を扱うオープンアクセス中心の学術誌「RCS Advances」に掲載された。
燃料電池は電極触媒として高価な白金(Pt)を使うため、その性能を維持しつつ低減することが求められている。
こうした背景から研究チームでは、微細化した均一なサイズの清浄な白金ナノクラスターを気相法により生成し、酸化ダイヤモンドを核として、直径が10~100nm程度のカーボンナノフィラメントが放射状に伸びた形をした、炭素繊維の毛玉のような材料「マリモカーボン」の粉体に直接担持することで、高活性・高耐久性を実現した触媒の開発を進めてきたという。
マリモカーボンの繊維間には数百nmクラスの空隙が多数存在し、燃料ガスや水の拡散性の向上が期待されている。炭素繊維はグラフェンシートが積層したカップスタック構造を持ち、白金はこのグラフェンシート間のエッジに担持することが可能であることが分かっている。
今回の研究で用いられたマリモカーボンは、ニッケルを担持した酸化ダイヤモンドに高温のメタンガスを流して、ダイヤモンド上にカーボンナノフィラメントを成長させることで合成されたもので、この合成されたマリモカーボンの粉体に白金ナノクラスターを蒸着することで、配位子のない清浄な白金ナノクラスターが高効率で合成され、マリモカーボンに直接担持できるようになったという。
作製された触媒を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、白金ナノクラスターはほぼ均一な粒径で高分散に担持されていることが確認されたほか、従来法である液相法により白金粒子がマリモカーボンに担持された触媒では、気相法と比較して白金粒子のサイズが大きく、溶液中の白金イオンの還元では粒子成長が起こりやすいことがわかったという。このことは、気相法で合成された白金ナノクラスターの方が、粒子が微細化されており、高活性な触媒の実現には気相法とマリモカーボンの組み合わせが向いていることを示すものだという。
気相法で合成した白金ナノクラスターをマリモカーボンに担持した触媒を、気相法で合成した白金ナノクラスターが従来のカーボンブラックに担持された触媒、液相法で合成した白金ナノクラスターをマリモカーボンに担持した触媒、液相法で合成した白金ナノクラスターをカーボンブラックに担持した触媒と併せて電流・電圧(I-V)測定による発電性能評価を行ったところ、0.6A/cm2以上の高電流密度では、マリモカーボンの担体の方が電流密度の増加に対するセル電圧の低下が抑えられ、発電性能が高くなることが確認されたほか、気相法で合成した白金ナノクラスターをマリモカーボンに担持した触媒が、1.2A/cm2の電流密度のときに最大電力密度が9.6W/mgPtとなり、白金担持量に換算すると、8.0V/(mgPt/cm2)、0.105gPt/kWとなり、白金の使用量低減につながることが示されたとしている。
今回の研究を踏まえ研究チームでは、白金の微細化と清浄化による白金利用率の向上、およびマリモカーボン利用による白金担持の高分散化・耐久化と優れたガス拡散性・生成水の排出性が、今後の触媒開発において有効な基盤技術になることが期待されるとしているほか、白金ナノクラスターの気相合成については、ターゲットやビーム形状の最適化により、触媒作製のスケールアップが図れるという。また、合金スパッタリングターゲットや複数のスパッタリング源を用いることで、触媒の合金化やコアシェル化が実現されることで、さらなる白金使用量の低減や発電特性の向上も期待されるとしている。