東京大学(東大)は1月19日、金属酸化物クラスターの「ポリオキソメタレート」を金属錯体と複合化することでナノ細孔を有する多孔性イオン結晶を構築したところ、複合化前のポリオキソメタレートに比べて、酸素生成反応に対する触媒活性が40倍以上に向上することを見出したと発表した。

同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の下山雄人大学院生、同・荻原直希助教、同・翁哲偉大学院生、同・内田さやか准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米化学会が刊行する旗艦学術誌「The Journal of American Chemical Society」に掲載された。

水素は単体で自然界に存在していないため、日本が掲げる水素社会の実現のためには、安価で水素を製造する技術を確立することが必要であり、中でも水(H2O)の電気分解(水電解)により水素を製造する手法の発展が期待されている。

水電解のボトルネックとされているのが、水から水素を製造する際の酸素生成反応で、この反応の効率が悪いと水素の製造効率が低下することが知られている。これまで、ルテニウムやイリジウムなどの貴金属が高効率で酸素生成反応を促進する触媒となることが報告されているが、持続可能性・低コスト化の観点から考えると、貴金属フリーな触媒材料が必要となるものの、貴金属を用いずに、酸素生成反応の高効率性・高耐久性を兼ね備えたな触媒材料を合成するのは難しいとされてきた。

そうした中、貴金属を使用しない酸素生成反応を促進する触媒として見出されたのが、金属酸化物の分子状のイオン種で、一般に負電荷を有する陰イオンである、構造内部にコバルトを導入したポリオキソメタレートだという。コバルトはレアメタルに分類されているものの、ルテニウムやイリジウムのような貴金属と比べると埋蔵量が多く、入手も容易で、低コスト化しやすいとされている。

しかし、コバルトを含むポリオキソメタレートも耐久性では優れているものの、酸素生成反応効率が低いという課題があり、その解決が求められていたという。

そこで、研究チームは今回、酸素生成触媒機能の向上に向け、負電荷を持つポリオキソメタレートと正電荷を持つ金属錯体が分子レベルで合体した複合材料である多孔性イオン結晶に着目することにしたという。

実際に、コバルトを含むポリオキソメタレートと金属錯体からなる多孔性イオン結晶の酸素生成触媒活性が調べられたところ、複合化前のポリオキソメタレートに比べて、40倍以上であることが確認され、複合化によって触媒活性が向上することが判明したほか、その触媒活性向上の理由を調査したところ、多孔性イオン結晶内で、金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与が観測されたほか、多孔性イオン結晶を構成する金属錯体の種類を換え、ポリオキソメタレートへの電子供給が起こらないようにしたところ、触媒機能は向上しないことも確認され、金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与が、イオン結晶における触媒機能の向上の起源であることが判明したという。

なお、研究チームでは、ポリオキソメタレートと金属錯体の適切な設計・組み合わせにより、電子移動の方向や量を精密に制御することで、高効率的な酸素生成反応を実現する革新的な触媒材料の創製が期待されるとしている。

  • 触媒

    (左)多孔性イオン結晶の合成スキーム。ポリオキソメタレートと金属錯体を水中で反応させるだけで、簡単に多孔性イオン結晶が得られる。(右)酸素生成反応における触媒活性の比較。多孔性イオン結晶は複合化前のポリオキソメタレートと比べて、高い触媒活性を示す。金属錯体からポリオキソメタレートへの電子供与によって、ポリオキソメタレートの潜在的な触媒機能が引き出されることが、各種分光学測定により解明された (出所:東大Webサイト)