東北大学は1月14日、「選択的注意」を要する作業中に提示される音楽(BGM)の「選択的注意妨害効果」とその特性について研究を行い、低音量のBGMでも選択的注意が妨害されうることを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大大学院 医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頚部外科学分野の白倉真之大学院生、同大学院 医工学研究科/医学系研究科(兼)の川瀬哲明教授、同大学院 医学系研究科 耳鼻咽喉・頭頚部外科学分野の香取幸夫教授、同大学院 医学系研究科 てんかん学分野の中里信和教授、同・菅野彰剛講師、東北大 加齢医学研究所の川島隆太教授らの研究チームによるもの。詳細は、米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。

日常生活では、周りの環境から絶えずさまざまな音が聞こえており、その中から聞きたい音・聞くべき音に選択的に注意を向け、不必要な情報を選択的に無視できること(聴覚性選択的注意)が、音を正しく聞き取る上で重要となる。

ヒトは、大勢が会話をしているパーティー会場など、ノイズの多い環境でも、対話相手の会話内容を聞き取る能力(カクテルパーティー効果)を有していることが知られている。今回、研究チームは、そうした聴覚性選択的注意に関する研究を実施し、低音量の音楽がどのように影響するのかを調査することにしたという。

具体的には、被験者の左耳にテスト音(注意刺激:聞くべき音)が提示され、テスト音が提示される度にボタンを押すというタスクを実施。その際、右耳(対側耳)に音楽刺激(無視したい音)を同時に提示し、脳磁図を用いて音楽刺激の妨害効果の検討が行われた。

その結果、対側耳にノイズ刺激を聞かせた場合、テスト音に対する脳の領域の脳磁図の反応(大脳聴覚野N1m反応)はほとんど影響を受けないにもかかわらず、対側耳に音楽を聞かせた場合、信号の振幅低下や反応までの時間の遅れ(潜時延長)といったN1mでの反応が著明に抑制されることが明らかになったという。

また、対側耳の音楽の大きさを音楽が聞こえるか聞こえないか(しきい値)のレベル付近まで下げても、N1mの抑制が観察されたほか、この脳磁図で観察された対側耳に聞かせた音楽の影響は、テスト音提示に対するボタン押し作業の“反応時間”でも確認されたという。

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    聴覚における選択的注意 (出所:東北大プレスリリースPDF)

研究チームによると、このN1mの抑制は、テスト音に対する選択的注意が対側耳に提示した音楽により分散されるため(音楽によりテスト音への注意が邪魔されるため)に生じたものと考えられるとのことで、音楽を聞きながらの自動車の運転(ながら運転)や、同様に音楽を聞きながらの勉強(ながら勉強)といった注意を要する作業中では、たとえ大音量ではなくても作業に対する注意レベルの低下が生じ、実際に作業効率にも影響を与えうることを示すものだとしている。

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    (上)右半球の全センサから記録されたN1m反応の重ね合わせ図。(下)対側耳への音楽、ノイズの提示レベルの影響 (出所:東北大プレスリリースPDF)

また、音楽とノイズで異なった効果が見られたのは、音楽とノイズで注意の引きつけ易さが異なるためであると推察されるという。

  • ながら作業

    音が聞こえたらすぐにボタンを押すタスクに対する影響(音楽vsノイズ) (出所:東北大プレスリリースPDF)

なお、今回使用された音楽は、ジャズピアノの楽曲だが、使用する楽曲の特性によっても影響の大きさは変化する可能性があり、どのような音楽が影響を与えやすいのかなどについては、今後の検討が必要としている。

研究チームでは、今回の実験では、健聴者を対象としたが、聴力が正常にもかかわらず、ザワザワした環境下での聞き取り困難を呈する聴覚障害者(いわゆる聴覚情報処理障害者)では、妨害音に“より妨害されやすい”聴覚特性を有している可能性も示唆され、同障害の病態解明や検査法開発にも寄与、貢献することが期待されるとしている。