はじめに
半導体の偽造品は最近クローズアップされていますが、実は今に始まった話ではありません。2000年前後のITバブル時には、高額な製品を中心に多くの半導体の偽造品が出回りました。その昔は、インベーダーゲームの時代まで、遡ることができるようです。半導体の需要の急増とともに発生する偽造品問題は、今回のような半導体不足と必ずセットになって表れてきます。なぜ偽造品問題は後を絶たないのか? どのような対策があるのか? 独自の視点から本質に迫っていきたいと思います。
なぜ半導体の偽造品は後を絶たないのか?
まず初めの疑問は、「なぜ半導体の偽造は起こるのか?」だと思います。この質問に対する回答は、残念ながら、「お金になる」からです。後ほど説明いたしますが、比較的小さな資本で仕入れ可能で、比較的低い賃金で作業を行え、リスクが少なく、リターンが大きいのが特徴です。
本題に入る前に理解しておきたいのは、半導体には偽造品が発生しやすい、いくつかの条件があることです。
- 製造リードタイムが長い
- 生産中止品が多い
- 小さくて価格が高い
半導体は現行品と生産中止品の2つに分かれます。現行品とは、半導体メーカーにオーダーを入れれば、製造してもらえる製品のことを指します。それに対して、生産中止品とはすでに半導体メーカーでは生産していない製品を指します。半導体の偽造品は、現行品でも生産中止品でも発生します。しかしながら、現行品と生産中止品ではアプロ―チが変わってきますので、まずは対象製品がどちらであるかを認識することが第一歩だと思います。
現行品の場合を考えますと、半導体を1から作ろうと思うと最低2ヶ月、長いと4ヶ月ほどかかります。ましてや、今回のような半導体不足が重なると、半年から1年のリードタイムは珍しくありません。顧客もそれだけの納期を待つことはできないので、マーケットにすでにある在庫を求めることになります。
現行品の場合は例え納期が長くても、待っていればいつかは製品の入手が可能です。生産中止品の場合は、半導体メーカーには発注できないため、初めからマーケットへ探しに行くことになります。そのため、現行品は半導体が不足時に偽造品が発生するのに対して、生産中止品はいつでも発生する可能性があるということです。このことからも、生産中止品の方が偽造品の発生リスクは高いと言えるでしょう。それでも、今回のような極端な不足が起きると、やはり現行品が偽造品のターゲットになってしまいます。
半導体は非常に小さく、リールのような梱包資材でコンパクトに格納できるため、保管・輸送がしやすいことが特徴です。輸送がしやすいということは、海外に販売しやすいということです。実際に現在、日本で偽造品の製造が行われていることは考えづらく、海外から入荷されているものと考えられます。半導体は鉄や紙などの商材と比較して、体積や重さあたりの単価が圧倒的に高いため、必然的に偽造品の対象になったのではと推測できます。
偽造品をどのように買ってしまうか?
偽造品を購入してしまうルートはいくつかあります。一番多いのが信用度の低い在庫情報のまとめサイトからです。簡単に言えば詐欺サイトです。一見、しっかりとしたホームページで、検索すると自分が探している製品がヒットして、見積を依頼すると適正な価格が返ってきます。そこで早速オーダーをしてしまいます。大抵、このような場合は、納入前に振り込みを要求されますので、偽造品が届いても何も手の打ちようがありません。このようなサイトは運営会社の名前がはっきり記載されていないため、クレームを言う先もない状態です。これらのサイトで、顧客自身が購入してしまうケースもありますが、他にはその製品を取り扱っている商社のまだ経験の浅い営業マンが、顧客の納期が間に合わないために、このようなサイトから買ってしまうケースもよく聞きます。いずれにしても、半導体の流通マーケットに知見がないことが大きな原因です。
それでは、流通マーケットに知見がある商社から買えば、それで解決かと言えば、そうでもありません。マーケットから買い慣れている商社は、自社で仕入先のリスク評価をしているため、簡単に騙されることはありません。それでも、極端に入手困難な製品の場合は偽造品を掴まされることがあります。さほど入手が難しくない製品の場合、商社が在庫を保有している会社に直接アクセスが可能なため、偽造品のリスクはほとんどありません。しかし、入手困難な製品の場合、日本に拠点を持って商売をしている商社から見える範囲では在庫がなくなります。さらに深いところを探索することになるのですが、この場合は、その国のブローカーを活用することになります。そのブローカー自身は、その商社とコミュニケーションがあり、普通であれば偽造品を入れてやろうという悪意を持っているわけではありません。商社から依頼を受けたブローカーは、自分が持っている情報範囲で見つからないと、また別のブローカーに引き合いを投げて、さらにその先にと行くわけです。こうして徐々に良心が薄れていくわけです。日本の商社からしてみると、もはや管理不可能になります。このようなケースで偽造品が入ってくるわけです。
半導体偽造品の種類と見分け方
半導体の偽造品にはいくつかタイプがあります。非常に稚拙な、誰が見てもすぐに分かるような粗悪品から、識別難易度の高いものまで各種想定する必要があります。詳細は以下で説明しますが、偽造品を見分けるうえでキーになるのは「良品サンプル」です。破壊可能な良品サンプルは偽造品識別で大きな効果があるため、真贋判定は良品サンプルとセットで考えておく必要があります。
(1)粗悪品
誰が見てもすぐに違う製品だと分かるものです。詐欺サイトから購入した場合には、このような製品が送られてくることがあります。
(2)リマーク品
現在の主流の偽造品のタイプです。廃棄された基板から部品を取り出し、それらの部品の表面を削って捺印を消してしまい、その上にきれいにコーティングしたうえでレーザー捺印します。ピンはリファービッシュと言って、曲がりを整え、実装できるようにメッキし直しますので、きれいに生まれ変わります。このタイプは出来上がりが良いものですと、肉眼では全く分かりません。薬品等を使い、パッケージ表面が擦られた跡がないか、元の捺印の跡がないかなどを調べます。この検査をリマーク検査と言います。また、良品サンプルがあれば、透過型X線で偽造品を識別できます。
(3)中身なし
パッケージのタイプとピン数は対象品と一致しているが、中身のチップが入っていないものです。チップが入っていないので、当然動作はしません。パッケージ表面を削ったりはしていないため、リマーク検査では不具合が検出されません。パッケージサンプルを入手する必要があり、今では逆に高くつくため、あまり見かけなくなってきました。透過型X線で簡単に偽造品を識別できます。
(4)ロットアウト品
半導体は製造するうえで、常に100%作ったものが求められる性能が出るとは限りません。歩留まりと言って、検査の合格率を表す言葉がありますが、歩留まりをできる限り向上することが、半導体メーカーとしての収益向上につながるのです。逆を言えば、一定数は必ず検査を合格しないということなのです。この不合格品は、通常はすぐに廃棄されるのですが、どういうわけか市場に出てきてしまうと、非常に厄介な存在になります。リマーク検査では検出できません。内部には正しい形状のチップが載っているため、透過型X線でも識別ができません。リードフレームやピン曲がりなどの目で見て分かる不具合が理由でロットアウトになっているのであれば識別可能ですが、チップによる不具合の場合は識別が困難になります。方法としては、ICテスターを使用して、ロットアウトの原因になった故障モードを確認すること。もう1つは、半導体メーカーにロット番号を知らせ、出荷履歴があるか確認することです。
ロットアウト品は半導体メーカーでは出荷履歴はありません。ただし、この出荷履歴のチェックは結構曲者で、半導体メーカー側の出荷履歴のデータが1か所になかったり、もしくは特殊なルートで出荷されたりすると、実際には出荷履歴があるのにもかかわらず、出荷履歴無と回答が返ってくることが良くあります。最近では半導体メーカーの管理の厳格化が進み、このパターンの市場への流出は減ってきております。
(5)作りこみ
高集積のICではほとんど心配ありませんが、汎用的な比較的代替が利きやすいICの場合、ある機能を満たす製品を作って、本来のメーカー名ではない、知名度の高いメーカー名・型番で捺印されてしまうことがあります。この場合は機能がパッケージ形状・ピン数が一致しているため、実装が可能で基本動作は一緒ですので識別が結構難しいです。良品サンプルを使い、詳細を比較検査することで偽造品を識別できます。
真贋判定における検査能力の重要性
現在のような半導体不足になった場合、流通マーケットから在庫を探し、購入すること自体は必要だと思います。しかしながら、偽造品を自社の製品に搭載してしまい、世の中にリリースしてしまっては大きな問題になります。いかにリスクを自社で把握し、コントロールできるかが重要な管理項目です。
そこで必要になってくるのが偽造品と正規品を識別するために行う真贋判定です。適切な真贋判定を行うことができれば、偽造品を通過させる可能性はほとんどゼロに近い数値となります。適切な検査を行うためには一定の検査設備が必要になります。一般的には透過型X線、マイクロスコープが最低限必要です。ここにDC特性を調べるカーブトレーサー、受動部品のパラメーターを調べるにはLCRメーターが必要でしょう。その他、含有物質を調査する蛍光X線やパッケージ開封器などがあれば、さらに詳細の検査が可能になります。
しかしながら、私自身の経験から真贋判定に一番有効なものは、肉眼です。ファーストインプレッションと言っても良いかもしれません。人間は数多く検査の経験を積んでくると、脳のある領域で過去に蓄積されたビックデータとの比較検証を瞬時に行い、問題がある場合には違和感を覚えるようになります。この違和感の精度は驚くほど高いです。実際に検査機器を使って検査してみると、最初一目見た時に感じた所見と一致します。そう考えると、いかに経験を積んだ検査員を育成できるかが勝負だと言っても過言ではありません。
このあたりはAIで完全に置き換わっていくのは難しい領域ですが、過去のデータを蓄積しておくことで、確率をはじき出すことは可能だと思うので、今後研究を進めて行くべきテーマだと考えています。いずれにしても、人間の目と機械とをバランスよく使っていくことが真贋判定において重要なことです。自社でその体制が構築できないのであれば、他社を活用しリスクヘッジの体制を構築していくことになります。検査を専門で行っている会社もあれば、流通品の調達と真贋判定の機能を両方提供している会社もあります。自社と相性の良い会社を探すことをお勧めいたします。ただし、今の時期は各社とも依頼量が急増しているため、ある程度余裕を持った検査納期を想定する必要があります。
偽造品における注意点
今まで経験した中で、偽造品に関して押さえておかなければいけない要点がいくつかありますので、共有いたします。
(1)まき直しのテーピング
偽造品を作る側としては、出来る限り取引を成功させるために、いくつかの罠を仕掛けてきます。代表的なのが、まき直しのテーピングです。この場合は、大抵が生産中止品だと思います。テーピングのはじめには、いくつかの本物が入っています。その他は全て偽造品と言うやり方です。
購入側がリスクヘッジのために、先にはお金を払わずに、入荷して検査後に問題ないのを確認してお金を支払う形式の場合に良く仕掛けてきます。偽造品を見抜くために有効な透過型X線ですが、テーピング品に対して、実は弱点を抱えています。
例えば1リールで3000個の製品だとします。半導体を全数調べようとすると、リールから全数取り出して、X線のステージに並べて検査を行うことになります。3000個検査するための時間は膨大になるので、必然とはじめの数個を抜き取って調べることになるので、そこに良品を入れておくという手法です。メーカーオリジナルのテーピングではない、巻き直したテーピングの際にはこの点を考慮に入れて検査を行ってください。
また、メーカーのオリジナルのリールであることを装っていることも当然ありますので、この点も合わせて考慮して検査を行ってください。なお、検査できる会社の中にはトップテープをはがさずに全数検査できる透過型X線を持っている会社もあります。
(2)納期が遅延する
偽造品の工程はそれなりに数があり、それぞれの担当が各工程を担当します。様々なケースがあるので一概には言えませんが、私の経験上、偽造品の場合は発注後に大抵、納期遅延を起こします。
偽造品は最初から作り終わっている場合と、オーダーを受けてから作る場合と2つに分かれます。最初からある場合とは、一定の需要があると判断して、初めからそれなりの数を作りこんでおく場合です。また、一回作ったが、偽造品であることがばれてしまい、返品された製品です。この場合は生産中止品であることが多いです。オーダーを受けてから作る場合は、最長で3週間くらいかかります。当然見積もり段階では1週間から10日のような形で回答してきます。
偽造品がリマーク品だった場合、実際にオーダーを受けると、まずは仕入れを行います。この場合の仕入れとは、廃棄基板から取られた部品です。ある程度仕分けがしてあることが予想できますので、ここは1日2日で入手できます。そこから、やすりでパッケージ表面の捺印を全数消します。これはそれなりの作業量です。その後黒のインクでトップコートをします。乾燥させると次はリファービッシュの工程に入り、ピンを整形し、実装できる形に再メッキします。そして次の工程がレーザー捺印です。版下が必要なシルク捺印は対応ができないので、基本的に100%レーザー捺印になります。次の工程は梱包箱やラベルを偽造します。内装箱を偽造し、リールにつけるラベルを偽造します。これらの工程が全て終わり偽造品は完成します。全ての工程を連携良く繋がっていれば1週間くらいでできると思いますが、誰かがサボるとすぐに2~3週間経ってしまうわけです。そのため、発注後納期が後ろにずれるケースは偽造の可能性が高まっていると考えられます。
偽造品を避けるために
では、どうしたら偽造品を避けることができるのかを考えてみます。
一番大切なことは、信頼できる仕入先から購入することに尽きます。偽造品を顧客に納入しないために、様々な方策を実施し、適切な対応ができていることが必要です。先に述べた検査に関する機能ももちろん必要ですが、さらに大切なことは、情報の適切な開示だと思います。
顧客と実際の仕入先の間にいる商社は、実際にどこから購入するかを分かっているため、自社でリスク評価ができます。仕入先ランクのような形で、取引ごとに仕入先の属性を明らかにし、どのくらいのリスクがどのようにあるのかを明確に伝えることができます。リスクが低いものに過剰な検査をすることはナンセンスになりますが、本来必要な検査を行わないのはもっと問題です。リスクに応じた検査を実行することこそ、偽造品の市場流出を防ぐ最良の方法です。
大切なのは偽造品を市場に流出させないことです。例え自社に入ったとしても自社製品には搭載させない仕組み、または、取引商社で検査し止める仕組みを構築することが大切です。流通マーケットからの生産中止品の購入をゼロにすることはできないと思います。現在の半導体の不足が終わったとしても、これからもきちんと運用していくべきテーマだと思いますので、まだ未対応であれば、この機会に偽造品のリスクをコントロールするための適切な業務フローの構築をお勧めいたします。
最後に
本編では半導体を中心に話を行いましたが、偽造品は半導体だけではありません。電子部品にも広がっています。そして、コンデンサや抵抗などの電子部品は製品自体が小さいので、捺印がないケースがほとんどで、余計に識別が難しくなります。
抵抗・コンデンサでは、別メーカーの製品をリールに貼ってあるラベルを全く別のメーカーに貼り替えてしまうだけで、偽造品が出来上がってしまいます。特にチップコンデンサは需要が急増するケースが良くあります。また、粒が大きい製品では結構高価になりますので、注意が必要です。この場合の識別方法はラベルのメーカー名のロゴマークの正確性やフォントなどが適正かを見極めていくことになります。また、コンデンサなどはLCRメーターなどでパラメーターの確認を行う方法や、破壊検査で断面を出し、壁厚などから良品と比較するようなアプローチが取られます。これらは実装すると最低限の機能を満たす製品ですので、厄介なものです。
水晶振動子なども、「半導体偽造品の種類と見分け方(5)作りこみ」で記載した方法で作られてしまいます。いずれにしても、半導体・電子部品の流通マーケットを正しく理解して、必要な方策を講じることで、対応可能な内容です。各社が適切な対応を実行することが必要になるのと同時に、商社側もトレイサビリティのさらなる強化など、精度をあげるための努力を継続する必要があります。