東京農工大学(農工大)は1月7日、油滴を多量に含んだ水(エマルション)の流れの速度は油滴がない場合に比べて1/10以下になること、水の体積と水-油の接触面積など、いくつかの指標を用いることで流れの速度を表せることを明らかにしたと発表した。
同成果は、農工大大学院 生物システム応用科学府の田島千智大学院生(研究当時)、農工大 工学研究院 応用化学部門の稲澤晋准教授らの研究チームによるもの。詳細は、化学工学の基礎的な論文を扱った学術誌「Chemical Engineering Science」に掲載された。
水と油は、洗剤のような界面活性剤を用いない限りは溶け合わないことが知られており、こうした水に溶けない油が無数の油滴として水中に分散している液体は「エマルション」と呼ばれ、日常生活の多くの分野で活用されている。
しかし、油滴を大量に含むエマルションを円管内に流す場合、その流れを説明する法則はまだ確立されていないなど、水の中に多数の油滴が存在することで水とも油とも異なる性質が現れることとなるため、まだ良く分かっていない部分も多いという。
そこで今回の研究では、水に界面活性剤とシリコーン油を加えて撹拌し、多数の油滴が水中に存在するエマルションを作製してガラス毛細管に通し、流動の様子を観察する手法が用いられたという。
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毛細管内を流動するエマルションの様子。(a)体積分率が低い(20vol%)と油滴(画像中の粒)は管中心(領域B)に集まり、管壁近傍には油滴がない(領域A)状態で流れる。(b・c)油の体積分率が増加すると、領域Aが狭くなり、領域Bが広がって油滴が密集して流れる (出所:農工大Webサイト)
油の体積分率や油滴のサイズはそれぞれ変化させて複数パターンを調査したところ、以下のことが明らかになったという。
- 油滴は管中心に集まって流れ、体積分率が高くなると管壁まで密集した状態で油滴が流れる
- 油の体積分率の大きいほど、油滴のサイズが小さいほど、流れの速度が遅くなる
- 「油と水の接触面積」、「水の体積分率」、「円管の内表面積」、「油滴なしの水の流れ」という4項目を考慮すると異なる油体積分率、油滴サイズ、管径のデータを1本の曲線上に整理することができる
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流動するエマルション溶液の先端位置(x)と時間の関係。実線は、x=x0(t/t0)nでフィッティングされた結果。式中、t0[s]は油滴を含まない水の流れから求まる特性時間。フィッティングからx0とnが求められた。油滴体積分率が大きくなると流れが遅くなることがわかる (出所:農工大Webサイト)
こうした研究ではこれまで、溶液の粘度(流れにくさの指標)など、流れに関わる物性値を測定して整理することが一般的だったが、今回の研究では、粘度の測定に頼らず、エマルションの特徴量である体積分率や滴サイズにより、流れをシンプルに整理できることが示されたという。
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(a)油滴サイズや管径が異なるデータは、油滴体積分率でおおよその傾向は整理できるが、データのばらつきも大きいという。(b)同じデータを4つの要素で整理し直すと、1本の曲線上(b中の実線)にデータが整理されることがわかった。ガラス毛細管の直径:0.20mm(赤)、0.10mm(青)、0.05mm(黒) (出所:農工大Webサイト)
そのため、今回の成果について研究チームでは、エマルションの体積分率、油滴サイズなどの諸条件で流れの予測が可能であることを意味しており、重要な知見だとするほか、水と油の接触面積が流速に負の相関が示されたことから、水と油の境目で摩擦による抵抗が発生していることが予想されるとしている。
なお、今後については、こうした知見を発展させ、体積分率や油滴サイズと、エマルションの粘度や流動速度との理論的な裏付けが得ることができれば、複雑な流れを対象とした理論構築への展開も期待できるとしている。