東京大学は12月21日、低密度で分子間のすき間の多いゲルの固体物性を詳細に調べ、同じ不規則系であっても、高密度に分子が詰まったガラスとは本質的に異なった振る舞いを示すことを明らかにしたと発表した。
同成果は、東大大学院 総合文化研究科の水野英如助教、同・蜂谷誠大学院生(研究当時)、同・池田昌司准教授らの研究チームによるもの。詳細は、米物理学会が刊行する化学物理学と物理化学を扱う学術誌「The Journal of Chemical Physics」に掲載された。
我々の身の回りに存在する固体は、大別して「規則的な固体」と「不規則な固体」の2種類に分けられ、規則的な固体とは、分子が規則的・周期的に配置した結晶のことを指す。一方の不規則な固体はガラス系や不規則系、またはランダム系などと呼ばれているもので、結晶が有する規則性・周期性は存在せず、分子は不規則な状態で固まっており、結晶とは異なる性質を有することがこれまでの研究から明らかにされている。
例えば、ガラスに関する研究は長年にわたってなされてきており、さまざまなことが分かってきている。ゲルもガラス同様の不規則系であるが、ガラスとゲルでは密度に大きな違いがあり、それが両者を区別する、2つの大きな違いを生み出すという。1つ目は、ガラスの分子は高密度に詰まっており、その分子配置は不規則であるものの、空間的には一様とみなすことができるが、ゲルでは分子は粗なネットワーク構造を形成し、その構造は空間的に極めて不均一なものだという。
もう1つは、分子間に働く力の違いで、ガラスでは分子は密な状態で互いに押し合い圧し合いしており、斥力が支配的だが、ゲルでは分子が引力によって繋がってネットワークを形成しており、引力が重要になるという。
しかし、これまで、こうした違いがゲルの性質・振る舞いにどのように反映されているのかはよく分かっていなかったという。そこで研究チームは今回、コンピュータシミュレーションを用いてゲルを模擬し、ゲルの固体物性を詳細に調べることにしたという。
具体的には、「液体・気体相分離過程が液体相のガラス化によって凍結することで形成されるゲル」を模擬。ゲルでは、分子がガラス状に固まったクラスターが空間中に分散し、それらが互いに繋がってネットワーク構造を形成。そうして模擬したゲルの中では、3次元空間中に2次元分の体積しか占めていないような、フラクタル次元が「2」という極めてスカスカなネットワーク構造が観測され、この状態により、ゲルは弾性率がギュウギュウに詰まったガラスと比べて小さい、柔らかいものとなることが示されたとする。
また、スカスカで不均一なゲルでは、その分子振動は空間的に不均一なものとなるが、巨視スケールでは、“スカスカ”を感じないくらい長い波長を持った、ゆっくりとした音波振動に収束することも判明。この結果は、ゲルが一様な弾性体として振る舞うことを示しており、欠陥が分散した弾性体として振る舞うガラスとは対照的だという。
さらに、ゲルではガラスで存在したボゾンピークや局在振動モードが観測されなかったともしており、この結果は、ゲルが一様な弾性体として振る舞うことを示すものだと研究チームでは説明しており、このようなガラスとの違いが生じる背後には、ゲルの分子間に働く引力が重要な役割を果たしていると推察しており、この点の理解に向けて今後のさらなる研究が必要との見方を示している。
今回の研究は、同じ不規則系であっても、密度が異なるガラスとゲルでは本質的に違った振る舞いを示すことを明らかにするもので、不規則系にはガラスやゲル以外にも、粒子間相互作用でエネルギー散逸が発生する粉体、粒子がアクティブ力によって駆動される生体系など、多種多様な系が存在することから、今後、そうした不規則系について包括的かつ統一的に理解することが目指すところとなるとしており、その一歩として、現在は高密度不規則系のガラスと、低密度不規則系のゲルを同じ理論的枠組みで統一的に記述できるような研究が進められているという。