宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月21日、小惑星探査機「はやぶさ2」がC型地球近傍小惑星リュウグウの表層2か所で採取して持ち帰った試料に対し、初期分析を進めた結果、水・有機物に富む始原的な特徴を持つことが明らかになったと発表した。
同成果は、JAXA 宇宙科学研究所(ISAS) 地球外物質研究グループの矢田達主任研究開発員を中心とした、国内外の研究機関・大学などの100名超からなる国際共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。
これまでの始原的な隕石の研究から、初期太陽系の物理・化学的な環境について、多くの物質科学的な証拠が得られてきた。しかし、隕石はその母天体が不明であるという点が課題となっていた。
これまでの小惑星の地上からの観測と実験室で確かめられた隕石の光学特性分析から、炭素質コンドライト隕石の母天体がC型小惑星であることは推定されている。しかし、これまではC型小惑星の試料を入手できていなかったため、その直接的な証拠は得られていなかった。それが、はやぶさ2がリュウグウの試料を地球に送り届けたことで、C型小惑星が炭素質コンドライト隕石の母天体であるかどうかが実際に確かめられるようになった。
はやぶさ2がリュウグウから持ち帰った試料の総重量は5.4gで、表層試料(A室試料)は3.2g、地下の物質も期待されるイジェクタ堆積地域の試料(C室試料)は2.0g。さまざまな機器を用いて試料全体の初期記載(初期分析)を行ったところ、A室とC室では、A室(表層)の方がより細かいことが判明したほか、個別のリュウグウ粒子全体(A+C室)のサイズ分布を、リュウグウ全球表面に分布する岩塊や、着陸リハーサルなどで接近した際の画像から求められた一部地域の岩石のサイズ分布と比較したところ、試料のサイズ分布の方が細かいことが判明。この傾向が、元々のリュウグウ表層におけるレゴリスの特徴なのか、サンプリングやその後のプロセスで細粒化やサイズ分別が起きたことによるのか、その点はわからないとしている。
また、個別リュウグウ粒子の顕微鏡画像から算出された3軸平均粒径をもとに、不定形粒子の体積推定式を用いて求められた推定体積と、それら粒子の秤量値から個別リュウグウ粒子の全体密度の分布が計算されたところ、A室とC室の分布に大きな差はなく、その平均値は1282kg/m3であったという。太陽系の平均組成に最も近い炭素質コンドライト(CIコンドライト)の全体密度が2120kg/m3で、最も密度が低い隕石であるTagish Lake隕石の全体密度が1660kg/m3なので、既知のどの隕石よりも密度が小さいことになる。
仮にリュウグウ試料の粒子密度をCIコンドライトと同等と仮定すると、そこから求められるリュウグウ粒子の空隙率は46%となり、探査機の赤外撮像カメラTIRの観測から推定された空隙率(30~50%)の範囲内に収まり、観測結果とも矛盾しないという。
さらにFT-IRで得られたA室およびC室試料全体の赤外反射スペクトルについて調べたところ、A室およびC室全体試料ともに2.72μmに大きな吸収の特徴が見られたという。これはOH基を持つ鉱物が豊富に存在していることを意味し、典型的な含水鉱物である「層状ケイ酸塩鉱物」の存在を示唆しているという。このほか、3.4μm付近には浅い吸収が見られ、この吸収は有機物中のC-H結合もしくは炭酸塩鉱物の存在を示唆しているとするほか、3.1μm付近にもわずかな吸収が見られ、セレスなどの小惑星で見られる、NH結合を含む化合物の存在が示唆されたとしている。
研究チームでは、顕微鏡観察でコンドリュールやカルシウム-アルミニウムに富む包有物などの高温包有物が見られないという特徴と合わせて考えると、リュウグウ試料は、もっとも太陽系の平均元素組成に近い特徴を持つCIコンドライトにもっとも近いと考えられるとしているほか、はやぶさ2搭載の赤外分光観測装置(NIRS3)によるリュウグウ全球の赤外反射スペクトルと帰還試料の比較から、試料がリュウグウの全体的な特徴を反映する代表的な試料であることが判明したとする。
さらに、リュウグウ観測データとA室およびC室全体試料のスペクトル・反射率が同等であったことから、赤外反射スペクトルと同様、試料が小惑星リュウグウ表層の代表的な試料であることが示されたとするが、試料はほかの参考としたさまざまな炭素質コンドライトよりも暗く、平坦な特徴を示しており、もっとも特徴が似ているCIコンドライトよりも暗いという点で異なっているともしている。
研究チームによると、これら初期分析の結果から、リュウグウ試料はその表層の代表的な試料だとすることができるとしており、今後進められる詳細な分析に向けて、参照となる情報を提供することができたとしている。