1999年に第1作が公開された映画『マトリックス』は全世界にブームを巻き起こした。通称「マトリックス・コード」と呼ばれる、黒い画面に緑の文字コードが縦にきらめくオープニングシーンや、キアヌ・リーブス氏扮する主人公ネオが後ろにのけぞりながら銃弾をよける「バレットタイム」は特に印象的だ。同シリーズの最新作となる『マトリックス レザレクションズ』が、全米公開となる12月22日に先駆けて日本国内では17日から全国で公開を開始した。

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シリーズ1作目『マトリックス』では、凄腕ハッカー「ネオ」としての顔を持ちながら普段は大手企業にプログラマーとして勤務するトーマス・アンダーソンが、謎の男モーフィアスに導かれながら、救世主として覚醒しAIが作り出した仮想世界から人類を開放するために過酷な戦いに身を投じる物語が展開された。

そこでシリーズ最新作の公開に合わせて、日本ハッカー協会の代表理事を務める杉浦隆幸氏をはじめ、新作映画を鑑賞したばかりの3名のホワイトハッカーたちに、ハッカーの視点から見た同作の感想と、実在するハッカーの仕事内容について聞いた。

なお、3名とも日本ハッカー協会に所属しながら、普段は企業に所属してセキュリティ業務に従事している。安井氏と佐藤氏は普段の業務に支障がないよう仮名で、また、安井氏は顔を伏せて参加していただいた。

  • (左から)安井氏、杉浦隆幸氏、佐藤氏

--最新作『マトリックス レザレクションズ』を鑑賞した感想を教えてください

杉浦氏:過去に公開された三部作とのつながりを感じるストーリーでした。1作目が公開された当時からこの業界にいる者としては、5インチのフロッピーディスクが劇中に登場したのは嬉しいですね。『マトリックス』の登場人物のように、人体にコードを接続して仮想世界に入り込めるのならば、目が疲れないので作業が楽になりそうです。

佐藤氏:街の人がマスクをしているシーンなど、現代とリンクしている点もありましたね。劇中で使われているモニターやマウスなどの機器は、実在するメーカーのモデルが使用されているので親しみを感じました。

安井氏:ガジェットは注目してしまいますよね。90年代のモニターは白っぽい製品が主流で、黄ばみやすいのが難点でした。劇中では当時のモニターが非常にきれいな状態で使用されていたので、「わざわざ漂白したのかな?」と想像しながら鑑賞しました。

杉浦氏:CGで再現したのかもしれないですね。

  • 杉浦氏

佐藤氏:もしもあんなにきれいなブラウン管ディスプレイが現存するなら驚きです。最新作は映像が非常に鮮明なので、これから映画を見る方はどこまでがCGで、どこからが本物なのかを気にしながら鑑賞するのも楽しいと思います。

杉浦氏:そういえば、1作目が公開された当時はマトリックス・コードのスクリーンセーバーが流行しました。今作を見てみて、改めてこのデザインのスクリーンセーバーが欲しくなりました。

安井氏:おそらく当時のスクリーンセーバーは現環境では動かないでしょうね。最新のPCに対応したスクリーンセーバーを誰かに作ってほしいです。会社のPCに設定して、離席中にマトリックス・コードを画面に表示できたら格好いいと思いませんか。

--最新作で好きなキャラクターはいますか

佐藤氏:モーフィアスがこれまでとは違った姿で登場したので驚きました。過去の作品の姿よりも今回の姿のほうが好きです。新しい姿でも活躍していたので嬉しいです。

安井氏:僕もモーフィアスが好きです。以前の姿も同じくらい好きですよ。

杉浦氏:私はやっぱり主人公のネオですね。字幕版で見たのですが、セラピーに通っているシーンでは片言の発音に聞こえるなど、演技力に引き付けられました。

--マトリックスシリーズはAIの反乱がテーマの一つです。AIが暴走する未来は現実的にあると思いますか

安井氏:現代のAIを前提にするならば、人間の行動次第であり得ると思います。例えば、悪意のある人がドローンに対して「青い服を着ている人だけを攻撃する」ように指示をするのは現代でも可能です。AI自身が勝手に暴走を始めるのは難しいと思いますが、人間の行動次第で攻撃的なロボットは作ることができてしまいます。

杉浦氏:私は先日、実際にドローンが暴走する現場を経験しましたよ。仕事でドローンを飛ばしていたのですが、制御が効かなくなってしまったのです。そこで、システムをハッキングして緊急停止信号を送信して墜落させました。ハッキングの技術を身に付けていてよかったです。

佐藤氏:劇中では虫や動物をモチーフにした、高度なAIを搭載したロボットが人間と共存していました。今はまだ難しいでしょうが、将来的には人間とAIが共存できる社会になってほしいです。