米国の宇宙企業「ロケット・ラボ」は2021年12月2日、開発中の新型ロケット「ニュートロン(Neutron)」の最新情報を公開した。
従来の構想に比べ、機体やフェアリング、エンジンに独自性ある技術を多く採用。打ち上げコストの低減を目指し、信頼性と再使用性をさらに追求したコンセプトとなった。
そこには、ライバルとなるスペースXの再使用ロケット「ファルコン9」の“弱点”を研究して生み出された、数々の工夫が込められている。
ロケット・ラボ
ロケット・ラボ(Rocket Lab)は米国に拠点を置く宇宙企業で、小型・超小型衛星を打ち上げることを目的とした超小型ロケット(Micro Launcher)の「エレクトロン(Electron)」を運用している。
エレクトロンは、地球低軌道に約300kg、高度500kmの太陽同期軌道に約150kgの打ち上げ能力をもつ。ニュージーランドにロケットの生産施設や発射場を構えるほか、米国ヴァージニア州ワロップス島にも発射台の建設を進めている。
かねてより世界的にブームになっている小型・超小型衛星(質量100kgから数kg級の衛星)は、従来は大型衛星の打ち上げに相乗りするなどしか打ち上げる方法がなく、好きなときに好きな軌道へ打ち上げることが難しいという課題があった。
ロケット・ラボはそこに目をつけ、小型・超小型衛星の打ち上げに特化したエレクトロンを開発した。2018年から運用を始め、これまでに22機を打ち上げ、19機が成功。100機以上の衛星を軌道へ送り込み、ビジネスとして大きな成功を収めている。
また、ロケット・ラボに追いつけ追い越せと言わんばかりに、世界中で超小型ロケットの開発競争が勃発。すでにヴァージン・オービット(Virgin Orbit)やアストラ(Astra)などといった企業が市場に参入している。
ニュートロン
一方、ロケット・ラボは次の一手として、今年3月に新型ロケット「ニュートロン」の開発計画を発表した。ニュートロンとは「中性子」という意味をもつ。
ニュートロンは、地球低軌道に約8tの打ち上げ能力をもつ中型ロケットで、小型衛星を数十機まとめての打ち上げや、惑星探査機、国際宇宙ステーション(ISS)への物資補給ミッション、そして有人宇宙飛行などの打ち上げに使うことを目指している。
低軌道に8tという打ち上げ能力は、エレクトロンと比べると約25倍も大きい。その一方で、現在世界で最も多く打ち上げられている米国スペースXの大型ロケット「ファルコン9」と比べると約半分の能力しかない。
ロケット・ラボの創設者でCEOのピーター・ベック(Peter Beck)氏は、「ロケットが大きいことは必ずしもいいことではない」とし、「中型ロケットの分野はブルー・オーシャン」だと語る。
「近年、数十機から数万機もの小型衛星を編隊で運用する『メガ・コンステレーション』の構築が活発になっています。こうした衛星群を効率よく構築するためには、複数の衛星をまとめて、なおかつ異なる軌道面に向け複数回打ち上げる必要があります。しかし、その1回あたりの打ち上げ質量は、(ファルコン9のような)大型ロケットがもつ打ち上げ能力よりもはるかに小さく、コスト面、効率面で問題があります。ニュートロンの低軌道に8tという打ち上げ能力は、まさにこうした打ち上げにとってちょうどいい、理想的なサイズなのです」。
ベック氏は「今後10年間に打ち上げられる衛星の80%以上は、コンステレーション衛星になると予想されています。ニュートロンは、その打ち上げに特化した世界初のロケットになるでしょう」と続ける。
また、8tという能力であれば、惑星探査機や有人宇宙船の打ち上げにも使うことができるため、ベック氏によると「ニュートロンは、2029年までに打ち上げが予想される衛星の約98%を打ち上げることができる」としている。
さらに、高い即応性と頻度での打ち上げも可能。この点も、大型ロケットでは実現が難しいものの、ニュートロンくらいのロケットであれば比較的簡単だとしている。高い即応性と頻度での衛星打ち上げは、たとえば有事の際に見たい場所のすぐ上空を通過する軌道に偵察衛星を打ち上げるなど、政府機関や民間で需要があり、こうした新たな付加価値、市場の打ち上げサービスも狙っている。
ベック氏は「私たちはエレクトロンで、マイクロ・ローンチャーというロケットの分野で新たなカテゴリーを開拓しました。そしてニュートロンで、ふたたび新たなカテゴリーを開拓したいと考えています」と語る。
ちなみにベック氏は、かつてはエレクトロンよりも大きなロケットの開発には懐疑的で、「もしエレクトロンより大きなロケットを造ることになったら帽子を食べてみせるよ」とさえ発言していた。この「帽子を食べてみせる(I'll eat my hat)」というのは、それだけ何かをしないことへの自信を表す、英語の慣用句である。
しかし、その発言を翻して、ニュートロンの開発を発表したことで、ベック氏はこの当時、約束どおり本当に帽子を食べるという、茶目っ気ある姿を見せた。