東北大学は11月11日、リチウムイオン伝導性イオン液体電解質の3Dプリント技術を開発することで、固体リチウムイオン電池を室温・短時間でオンデマンドに3Dプリント製造する技術の開発に成功したと発表した。
同成果は、東北大 多元物質科学研究所の雁部祥行技術職員、同・小林弘明助教、同・本間格教授らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する学術誌「Dalton Transactions」に掲載された。
リチウムイオン電池(LIB)は、幅広い分野で活用されるようになったが、その電解液は、リチウムが含まれているために空気(酸素)と触れると激しく燃焼してしまうという課題があり、その解決策の1つとして、電解液ではなく固体電解質を用いた全固体LIBの研究開発が、世界各所で進められている。
しかし、その一方で、揮発しにくく燃えにくいリチウムイオン伝導性イオン液体と、それを用いた「疑似固体LIB」の研究開発も進められており、今回の研究チームもその1つだという。
また、LIBは蓄電デバイスのさまざまなニーズに応じたオンデマンド製造技術も求められるようになることが予想されており、その点も研究チームは取り組んでいるとのことで、近年は、3Dプリント技術の蓄電デバイスへの応用研究を進めているところだという。すでに2021年4月に、その成果として3Dプリントが可能な電気化学キャパシタが作製可能なことが報告済みだという。
しかし、これまで3Dプリント技術による室温での固体LIBの作製は困難だと考えられてきており、今回、研究チームは、これまで培った知見を融合させることで、疑似固体LIBの室温3Dプリント製造技術の開発に挑むことにしたという。
疑似固体電解質は、構成成分であるリチウムイオン伝導性イオン液体、酸化物ナノ粒子の成分比を調整することで、(疑似)固体粉末状・ゲル状を作り分けることができるという。疑似固体電池では酸化物ナノ粒子の成分量が多い固体状の材料が用いられるが、今回はゲル状の材料が着目された。そこに紫外線硬化樹脂が混ぜられ、それによって光造形方式による室温3Dプリントが可能なインク材料となることが見出されたのである。
開発された電解質インク材料は、疑似固体電解質が持つ高いリチウムイオン伝導性・難揮発性・難燃性を有しており、また光造形方式3Dプリントによる高速かつ高い成形性を有している点が特徴だとする。今回の研究では、この電解質インク材料と、コバルト酸リチウム正極インクおよびチタン酸リチウム負極インクを使用することで、3Dプリント技術のみで疑似固体LIBを作製することに成功(ただしパッケージ部分は除く)、100回以上の安定な充放電動作を実証したとした。
今回開発された技術および材料は、ポリマーなど熱分解性のあるソフトマテリアル上に室温で3Dプリント造形が可能であり、生体適合性マイクロ電池やフレキシブルデバイスへの応用も可能だという。また、3Dプリンタの設計によりミクロンオーダーからメートルオーダーまで任意の大きさ、任意の形状の電池を造形できるため、ウェアラブルデバイスや車載用電源など、固体LIBの幅広いニーズにオンデマンドに対応して製造することも可能だとしている。
なお、研究チームでは、さらに蓄電デバイスのインク化技術の知見を活かし、質量エネルギー密度の大きな正極インクなどの開発や、電解質インクの種類を変更することで、マグネシウム蓄電池など、次世代・次々世代バッテリーへの応用も期待されるとしている。