ヌリ号が成し遂げた偉業と意義

韓国にとって今回のヌリ号の打ち上げは、大きな意義があり、そして偉業ともなった。

韓国は衛星開発においては高い技術と実績をもち、偵察・地球観測衛星はほぼ国産化を達成しているほか、民間の宇宙ベンチャーも活発で、国外へ衛星やその部品などの輸出も行っている。また、中型・大型の静止衛星の開発にも力を入れている。

これまでは、そうした衛星を打ち上げるためのロケットを有しておらず、すべて他国のロケットで打ち上げられてきた。宇宙開発、宇宙輸送における自律性の確立、そして宇宙ビジネスへの発展という点でも、自分たちの手で、自分たちの地から、自由に打ち上げられるロケットは必要不可欠だった。

また、1998年には北朝鮮が衛星打ち上げに挑み、2012年には軌道投入に成功したことで、主に政治的な観点から、韓国も衛星を打ち上げる能力をもつ必要性に迫られたという側面もあった。

今回のヌリ号の打ち上げでは、衛星の軌道投入は失敗には終わったものの、宇宙輸送の自律性の確保のために必要な技術力を示し、次につながる成果となったことで意義があった。

また、一般的にある国、ある企業が初めて開発したロケットが、初めての打ち上げで成功を収める確率はきわめて低い。それも発射台から離昇できなかったり、空中で爆発したりといったトラブルが起こる。たとえば、日本も最初の人工衛星の打ち上げでは4回連続して失敗し、5回目で成功。いまをときめくスペースXも、最初に開発した「ファルコン1」ロケットの打ち上げは3回連続で失敗し、4回目でようやく成功した。

だが、今回のヌリ号は、韓国にとって初の純国産ロケットながら、無事に離昇し、クラスタリングしたエンジンでの飛行や、液体上段エンジンの点火といった、韓国がこれまでに経験したことのない動作も順調もこなした。とくに推力75tf級エンジンが順調に燃焼したことに関しては、累計2万秒にもわたる徹底した燃焼試験を行った成果が出たといえよう。

さらに発射施設や地上局もトラブルを起こさず、打ち上げを完全にサポートした。

ほぼ初めてだった宇宙ロケットの打ち上げで、成功の一歩手前まで到達したことは、ヌリ号の試験飛行として大きな成果となっただけでなく、宇宙開発史、技術史にとっても大きな偉業となったことは間違いない。

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    打ち上げを待つヌリ号 (C) KARI

ヌリ号の今後

ヌリ号は今後、まずは今回の打ち上げで起きたトラブルの原因を調査し、改修することが目下の目標となる。現時点で、試験機2号機の打ち上げは2022年5月の予定とされるが、調査や改修の進み具合によって遅れる可能性はあろう。

仮に試験機2号機の打ち上げが成功すれば、その後は運用段階に入り、2027年までに4機の打ち上げを行う予定だという。

ヌリ号が運用に入れば、偵察衛星の打ち上げから運用までを一貫して、自律的に行えるようになり、安全保障面で大きな価値をもたらすことになる。

また、ヌリ号は現在KARIが運用しているが、将来的にはロケット技術を民間へ移管し、民間の商業ロケットとして運用することも計画されている。

前述のように、韓国はすでに小型衛星の分野で高い技術と実績をもち、他国への輸出も好調である。韓国航空宇宙産業やハンファなどによる衛星ビジネスへの新規参入も相次いでいる。

ヌリ号の太陽同期軌道に1.5tという打ち上げ能力は、こうした小型・超小型衛星の打ち上げにとって適しているため、運用に入れば、打ち上げビジネスへの参入や、衛星の製造から打ち上げまですべてをパッケージ化した輸出も可能となろう。

さらに、ヌリ号のエンジンをさらに束ねて大型ロケットへと発展させる計画があるほか、韓国独自の衛星測位システム「KPS」を構築するプロジェクトもある。2029年には地球近傍小惑星のひとつ「アポフィス」を探査する探査機の打ち上げも構想。2030年には月着陸機と探査車をヌリ号で打ち上げることも計画されているなど、ヌリ号によって韓国の宇宙開発、そして宇宙ビジネスが大きく発展することが期待されている。

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    ヌリ号の開発や大型ロケットへの発展計画を示した図 (C) KARI

一方で課題もある。たとえば打ち上げを行うナロ宇宙センターは、北には韓国の市街地が、また東側には日本があるため、南の方向にしかロケットが飛ばせないという問題である。地球観測衛星や偵察衛星などの極軌道衛星を打ち上げる場合には問題にはならないが、静止衛星などを打ち上げることは事実上不可能である。

したがって、静止衛星などの打ち上げは他国に委託するか、他国に発射場を建設する、もしくは船で海上から打ち上げる技術を開発するしかない。

また、前述のようにヌリ号の打ち上げ能力は、小型・超小型衛星の打ち上げにとって適してはいるが、一方でこのクラスには、欧州の「ヴェガ」、インドの「PSLV」、そして日本の「イプシロン」などが存在し、とくにヴェガとPSLVはすでに商業打ち上げに参入している。また、米国でも同クラスのロケットの開発が進んでおり、さらにこれよりやや小型のロケットまで対象を広げると、世界中のベンチャー企業が活発に開発しており、競争が激化している。

こうした中で、2020年代後半からヌリ号が新規参入するには、低コスト化、あるいは高い信頼性などの付加価値や強みをつけることが求められる。

もっとも、こうした点はこれまで机上の空論に過ぎなかったが、ヌリ号の完成が見えたことで、ようやく現実の問題として考えることができるようになった。産みの苦しみを味わえるようになったのは、間違いなく前進といえよう。

ロシアとの不幸な共同開発、そして12年にわたる開発を経て、ヌリ号と韓国は星の海へと漕ぎ出した。残念ながら今回は、その浜辺で足踏みするような結果となってしまったが、その舳先は確実に宇宙を向き続けている。これからつむがれる、韓国による宇宙の冒険譚を楽しみにしたい。

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    ヌリ号の打ち上げの様子 (C) KARI

参考文献

The first stage, second stage, and dummy satellite separations were successful, but the combustion of the third stage engine prematurely terminated.
https://www.kari.re.kr/nuri
[ Nuri, the Korean launch vehicle > Space Launch Vehicle > R&D > ]
Message to Nation from President Moon Jae-in on Launch of Korean Space Launch Vehicle Nuri
「ロシア、羅老号のとき韓国に先端ロケットを残していった」(1) | Joongang Ilbo | 中央日報