神戸大学は10月28日、腸内細菌「Bacteroides」が褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝を亢進することで肥満を抑制することを発見したと発表した。
同成果は、神戸大大学院 医学研究科内科学講座 循環器内科学分野の吉田尚史研究員、同・山下智也准教授、同・平田健一教授らの研究チームによるもの。詳細は、国際生物学総合誌「iScience」に掲載された。
肥満者の増加は世界的なもので、その健康面での影響のみならず、医療経済的観点からも社会問題とされており、その解決が求められるようになっている。
褐色脂肪組織は、分岐鎖アミノ酸を含む栄養素を利用して熱の産生を行う臓器であり、熱産生によるエネルギー消費の増大から、肥満抑制的に働くことが知られている。これまで、褐色脂肪組織における分岐鎖アミノ酸利用の低下が熱産生を低下させることで肥満を引き起こすことが報告されているが、褐色脂肪組織における分岐鎖アミノ酸代謝を制御する環境因子については、まだわかっていなかったという。
そこで研究チームは今回、その謎に迫ることにしたという。具体的には、腸内細菌が褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝を制御していることを明らかにするため、腸内細菌が存在する通常マウスと、腸内細菌が存在しない無菌マウスを用いて、高脂肪食による負荷を与え、褐色脂肪組織における分岐鎖アミノ酸代謝の評価を実施。その結果、通常マウスでは高脂肪食負荷後に緩やかに分岐鎖アミノ酸代謝が低下するのに比し、無菌マウスでは高脂肪食負荷後、分岐鎖アミノ酸代謝が顕著に低下することが判明したとする。また、この結果は、腸内細菌は高脂肪食に伴う褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝の低下に対して保護的に作用していることを示すものであるとする。
さらに、ヒト腸内細菌叢における優勢菌の一種である2種類のBacteroides菌(Bacteroides doreiとBacteroides vulgatus)を食餌性肥満モデルマウスに経口投与し、その抗肥満効果や褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝に与える影響を評価したところ、両菌を投与されたマウスは、コントロールマウスより体重増加が有意に抑制されることが確認されたとするほか、菌投与マウスにおいて褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝は有意に亢進していることも確認されたという。このことは、両菌が褐色脂肪組織の分岐鎖アミノ酸代謝を亢進させることで、肥満を抑制したことを示唆していると研究チームでは説明する。
これらの研究結果を踏まえ研究チームは、肥満患者7名の糞便を採取し、患者個々の腸内細菌叢を維持できる「ヒト腸管モデル」にて培養し、両菌のプロバイオティクスを添加してみたところ、7名全例において、両菌の割合が有意に増加することが明らかにされたとする。この結果は、肥満患者が両菌のプロバイオティクスを摂取した際に、腸内細菌中に占める両菌の割合が増加することを示唆するもので、今後、この成果を活用し、腸内細菌制御による、新たな抗肥満治療の開発につながることが期待されるとしている。