大阪府立大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)、東京大学の3者は10月28日、油膜が水面に薄く広がるのを利用し、原料分子を含む溶液を金属イオン水溶液に滴下するという簡便な製造プロセスで、高い導電性と透明性を持つ、厚さ10nmの「ナノシート」を作製することに成功したと発表した。
同成果は、大阪府立大 大学院工学研究科の大畑考司大学院生、同・野元昭宏准教授、SPring-8/JASRI 産業利用・産学連携推進室の渡辺剛主幹研究員、同・廣沢一郎室長(研究当時)、東大大学院 新領域創成科学研究科 物質系専攻の牧田龍幸大学院生(研究当時)、同・竹谷純一教授、大阪府立大 大学院工学研究科の牧浦理恵准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、界面プロセスを扱う学際的な学術誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載された。
グラフェンや金属酸化物など、これまでに報告されている多くのナノシートは、マクロスケールの材料を剥離することにより製造されているが、その製造には、多くのエネルギーを消費する高温・高圧や複数のプロセスが必要な場合が多いほか、剥離する過程でナノシート自体が破壊されるといった課題がある。
そこで研究チームが着目したのが、古くから知られる水面に数滴の油を落とすと、均一に油膜ができる現象。今回、この現象が省エネルギープロセスの材料製造につながるのではないかと考察し、水面に原材料を含む溶液を滴下するという簡単な方法で、高度な立体ナノ構造を有し、電気を流すナノシートの作製を試みることにしたという。
その結果、原料の分子形状と結合相手となる金属イオンの組み合わせと、水面での作製条件を工夫することにより、多孔質かつ電気を流すナノシートの作製に成功したという。
2,3,6,7,10,11-ヘキサアミノトリフェニレン(HATP)と呼ぶ平らな三角形状で、電子を運ぶのに適したπ共役系のベンゼン環を4つ含む疎水性の中心部の周りに、親水性のアミノ基がバランス良く配置されている構造の分子を用いて、実験を実施したところ、HATPをニッケルイオンが含まれる水面に散布すると、HATPが水面に広がり、ニッケルイオンを介して次々と連結して、六角形の穴が規則正しく開いたハニカム構造を形成すること、ならびに中心部のトリフェニレンのπ電子間の相互作用により、水面に対して垂直な方向にも分子が密に積層した、立体ナノ構造が構築されることが確認されたという。
また、HATPとニッケルイオンとの相互作用により、電気のもととなる電荷が新たに生じ、π共役系や分子が密に積層した構造は電荷の通り道となり、ナノシートに電気が流れるようになることも確認したという。
このナノシートの厚みは約10nmで、電気を流す電気伝導度は、0.6S/cmと100nm以下の厚みのナノシートの中で高い値を示したとするほか、その光透過度が99%であることも確認したとする。
詳細な解析により、想定されていたとおりのハニカム構造と積層構造からなる立体ナノ構造であること、ならびにそれらが向きをそろえて適切に接続されているため、電荷の移動がスムースになり、高い電気伝導を実現できることが示唆されたという。
研究チームによると、水面を利用するナノシート作製手法は、使用する原料の分子を変えることで、細孔の形状やサイズを変化させることが可能であるため、検体に応じて適した細孔をデザインすることで、検体の選択性を向上させたり、感度を向上させたりすることが期待できるとしている。
また、今回得られたナノシートについては、薄膜電池や薄膜キャパシタなどのエネルギー貯蔵デバイスの電極に応用することで、より高速な充放電や高い充電容量を実現できる可能性があるとしているほか、光透過度99%という透明性から、ディスプレイや太陽電池の電極としても有用である可能性があるとしている。