大腸がんが免疫の攻撃を回避する仕組み、国がんなどが解明

国立がん研究センター(国がん)、東京大学、国立国際医療研究センター(NCGM)、日本医療研究開発機構(AMED)の4者は10月19日、「免疫チェックポイント阻害剤」が有効とされる「マイクロサテライト不安定性大腸がん」において、免疫細胞が、がん細胞を認識して攻撃する際の目印とされるHLA遺伝子が機能しなくなっていることを、長いDNA配列を解読することのできる最新技術の「ロングリードシークエンサー」を用いて明らかにしたと発表した。

同成果は、国がん 研究所 細胞情報学分野の河津正人ユニット長(現・千葉県がんセンター研究所部長)、同・間野博行分野長、同・腫瘍免疫分野の西川博嘉分野長、東大 医学部附属病院 大腸・肛門外科の石原総一郎教授、東大大学院 新領域創成科学研究科の波江野洋特任准教授、NCGM ゲノム医科学プロジェクトの徳永勝士戸山プロジェクト長らの研究チームによるもの。詳細は、「Gastroenterology」にオンライン掲載される予定だという。

免疫チェックポイント阻害剤などの免疫療法が、さまざまながんに対する有効性が確認できるようになってきたが、その一方で十分な治療効果を得られないケースも少なくないとされており、一般的にコストが高いことから医療費の負担も心配されており、治療効果の正確な予測方法や、新たな治療法開発が求められているという。

免疫細胞ががん細胞を攻撃する際の目印とされる「HLAクラスI遺伝子」の変異は、古くから知られていたが、HLAクラスI遺伝子にはさまざまなタイプがあり、各個人で異なること、また各個人で最大6種類のタイプを持っていることなどから、1度に解読できる長さが200塩基ほどの次世代シークエンサーでは解析が困難だったという。

そこで研究チームは今回、10万塩基長を超えるような非常に長いDNA配列の解読も可能とする最新のロングリードシークエンサーを活用してがん細胞におけるHLAクラスI遺伝子の変異を明らかにすることで、細胞が免疫の監視から逃れてがん化する仕組みの解明と、免疫療法の治療効果予測に有用なバイオマーカーの同定を試みることにしたという。

大腸がんにも複数の種類があり、そのうちの10～20％を占める「マイクロサテライト不安定性大腸がん」を今回は研究対象とし、112例に対しロングリードシークエンサーをはじめとする複数の解析を実施することで、がん細胞と免疫細胞が混在する腫瘍組織の全体像の解明が試みられた。

その結果、マイクロサテライト不安定性大腸がんでは、HLAクラスI遺伝子に機能不全をもたらす後天的変異が、高頻度に生じていることが判明したほか、各個人が持つ6種類のHLAクラスI遺伝子のタイプごとの変異頻度と、それによる免疫状態の変化も解明に成功。さらに、変異が生じたHLAの数やタイプに応じて、腫瘍組織中のリンパ球の数や免疫状態が異なることも判明したほか、HLAクラスI遺伝子そのものの変異とは別に、HLAクラスIの発現量の低下につながるような遺伝子変異も複数同定されたとする。

さらに、がん細胞が遺伝子変異によって免疫細胞の攻撃から逃れて進展していく様子を表した新規数理モデルを構築することで、初期は免疫活性化の効果によってがん細胞の増殖が鈍るが、その後は免疫逃避の効果によって増殖速度が上昇するということが確認されたとするほか、HLAの機能喪失の程度の定量化により、リンパ球浸潤の程度も加味されて免疫状態がリンパ球浸潤が多いもの、B2M遺伝子変異によりHLAの機能が喪失したもの、HLAクラスI遺伝子変異によりHLAの機能が喪失したもの、それ以外の4つに分類がなされ、それ以外の場合、HLAクラスI遺伝子の機能喪失変異はないものの、同遺伝子の発現が低下していること、ならびにリンパ球浸潤が多い群と少ない群で、がんが見つかるまでの増殖の仕方が異なることなどが見出されたという。

• マイクロサテライト不安定性大腸がんの免疫・ゲノム解析。HLAの機能喪失の程度が定量化され、リンパ球浸潤の程度が加味された上で免疫状態が4つに分類された (出所:共同プレスリリースPDF)

これらの結果をまとめると、大腸がんが免疫の攻撃から逃れる様式が複数あり、それぞれで増殖曲線が異なることを示されたと研究チームでは説明しており、今後は、今回の成果を進展させていくことで、免疫療法が効きにくい患者の予測や、効果的な治療戦略の開発につながることが期待されるとしている。

• がん進展の新規数理モデルと免疫状態によって異なる増殖曲線 (出所:共同プレスリリースPDF)

また、今回の研究では、HLAクラスI変異以外にも、腫瘍の免疫状態の変化をもたらす遺伝子の異常が複数同定されたことから、それらの遺伝子異常により実際に治療効果予測が可能なのか、今後も検証を進める予定としているほか、子宮体がんなどでも同様の解析を進め、がん種による免疫療法の感受性の違いや効果的な治療戦略の検証を進めるともしている。