東京大学(東大)は10月12日、子どもを持つ男性が在宅勤務を行うことによって、家族とのかかわり方がどのように変化するのかを推定した結果、在宅勤務が週1日増えると、男性の家事・育児時間が6.15%、家族と過ごす時間が5.55%増加し、仕事よりも生活を重視するように意識が変化したと回答する割合も11.6%上昇することが確認され、その一方で生産への影響は認められなかったと発表した。

同成果は、東大大学院 経済学研究科の井上ちひろ大学院生、米・デューク大学 経済学部の石幡祐輔大学院生、東大大学院 経済学研究科 経済専攻の山口慎太郎教授らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、「東大経済学研究科 附属政策評価研究教育センター ディスカッションペーパー(CREPEDP-109)」に掲載された。

「仕事と家庭の両立」が現代社会の課題となる中、柔軟な働き方の1つとして注目されているのが在宅勤務を含むテレワークだ。新型コロナウイルスによるパンデミックにより、普及が進んだ結果、これまでの研究からは働く女性の「仕事と家庭の両立」に役立つことが明らかにされている。

一方で男性の家族とのかかわり方に在宅勤務がどのような影響を与えるのか、データから実証した研究は、これまでにほとんどなかったという。それは、在宅勤務を行っている人が積極的に家事・育児に参加しているという相関関係がわかったとしても、在宅勤務によって家事・育児参加が増えたという因果関係があると必ずしも結論づけるのが難しいことが主な理由だ。もともと家族志向の強い人ほど在宅勤務を選びがちである可能性も考えられ、その場合、在宅勤務が家事・育児参加を促したとはいえない。

そこで研究チームは今回、その問題を解決するために、計量経済学の手法である「一階差分モデル」と「操作変数法」を組み合わせることで、在宅勤務が男性の家事・育児参加に与えた因果効果の推定を行うことにしたという。

データとしては、内閣府が実施し、2020年12月24日に結果が発表された「第2回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」から得られた個票が用いられた。同調査では、働き方や仕事・家族生活について、感染症流行前の2019年12月と2020年12月を比べた変化を尋ねる質問が多く含まれており、一階差分モデルを用いる今回の研究におけるデザインに適合しているという。

また、自身の業務全体に対して、問題なくテレワークできる業務が2019年12月時点でどれほどの割合を占めていたかを尋ねる質問も含まれており、この項目が操作変数として利用されており、このことから推定結果は「テレワークできる業務の割合が多いという理由で、2019年12月から2020年12月の間に在宅勤務日数を増加させた人」に対する在宅勤務の平均的な因果効果として解釈されるとしている。

推定の結果、在宅勤務を行う日が週に1日増加すると、子どもを持つ既婚男性に関して以下の変化があったとした。

  • 家事・育児時間の変化:6.15%増加
  • 家事分担が増えた:9.26%増加
  • 家族と過ごす時間の変化:5.55%増加
  • 仕事より生活を重視するようになった:11.6%増加

これらの結果は、在宅勤務が行動・意識の両面で男性の家族志向を高めることを示唆しているとするほか、仕事に関する質問項目についても同様の分析を行ったところ、。調査での回答者の申告に基づく限り、生産性に対して在宅勤務が悪影響を与えるという結果は得られなかったことも確認されたという(-0.16%の微減)。

今回の研究から、少なくともテレワークできる業務の割合が多い男性について、平均的には、在宅勤務が仕事の生産性を低下させることなく家族志向を高めることが示されたと研究チームでは説明しており、在宅勤務の推進が家庭内労働の男女平等を促し、究極的には出生率の向上につなげられることが期待されるとしている。

  • 新型コロナ

    在宅勤務が週に1日増えることがもたらす効果。エラーバーは95%信頼区間を表す (出所:東大プレスリリースPDF)