北海道大学(北大)は10月8日、ワイル半金属が有する線形のエネルギー分散である「ワイルコーン」の傾きを考慮したモデルハミルトニアンを用いることで、「カイラルアノマリー公式」を拡張することに成功したと発表した。
同成果は、北大 電子科学研究所の近藤憲治准教授らの研究チームによるもの。詳細は、応用物理学を扱う学術誌「Applied Physics Letters」に掲載された。
ワイル半金属は、通常の絶縁体とトポロジカル絶縁体のクリティカルポイントであるトポロジカル半金属の1つで、ディラック半金属において、時間反転対称性または空間反転対称性が破れることで実現し、ワイルコーンと呼ばれる線形のエネルギー分散を持つことを特徴とする。
またワイルコーンの傾きの強度に応じて、ワイル半金属は「Type-I」と「Type-II」の2種類に分類される。ワイルコーンの閉じている部分を「ワイルノード」と呼び、ワイルノード周辺の電子は「カイラリティ」という物理量を持つ。
通常、ワイル半金属全体のカイラリティは保存されているが、外部から磁場と電場の両方を印加することで保存されなくなる。この現象が「カイラルアノマリー」であり、このカイラルアノマリーに起因して、Type-Iワイル半金属は負の縦磁気抵抗効果を示し、スイッチングデバイスや磁気センサへの応用が期待されている。
また、Type-Iワイル半金属における負の縦磁気抵抗効果が生じるメカニズムは、ワイルコーンの傾きを考慮していない従来のカイラルアノマリー公式を用いて説明されてきた。
そして近年、Type-IIワイル半金属がカイラルアノマリーに起因して、正と負の縦磁気抵抗効果を示すことが明らかになった。このメカニズムを、Type-Iワイル半金属と同様に説明しようと試みられたが叶わなかったという。
その原因が、実は従来の公式がワイルコーンの傾きが考慮されていない不完全なものであるためであることが、今回の研究において確認された。そしてこの問題を解決するため、研究チームはワイルコーンの傾きを考慮したモデルハミルトニアンを用いることで、従来の公式を拡張することに取り組むことにしたという。
今回の研究ではワイルコーンが2つ存在し、それらのワイルコーンが同じ方向に傾く場合(Positive tilt chirality)と互いに向き合う、または互いに反れるように傾く場合(Negative tilt chirality)の2通りが考えられるとされた。その結果として、拡張したカイラルアノマリー公式の導出に成功したとするほか、その公式を用いて、Positive tilt chiralityの場合とNegative tilt chiralityの場合における縦磁気抵抗効果のメカニズムについて説明をすることで、これらの公式の有用性と有効性が示されたとする。
今回の研究成果は、ワイル半金属中のワイルコーンの傾く方向や傾きの強度などの情報から、正と負のどちらの縦磁気抵抗効果を示すかを見積もることができることを示唆するものであるとのことで、それによるとType-IIワイル半金属は磁場の方向に応じて正または負の縦磁気抵抗効果を示すことが予想され、磁場の強度のみならず磁場の方向まで測定可能な磁気センサへの応用が期待されていると研究チームでは説明するほか、将来においてその応用がなされる際には、今回の拡張されたカイラルアノマリーの公式がよい指標になると考えられるとしている。