京都大学(京大)は、ヒト検体およびマウスモデルを用いた研究で、転写因子「Tox2」が抗体反応誘導に重要なリンパ球の一種である「濾胞性ヘルパーT細胞(TFH細胞)」の持続、その長期生存型の「メモリーTFH細胞」への分化に重要であることを突き止めたと発表した。
同成果は、京大 高等研究院 ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)の上野英樹主任研究者(京大大学院 医学研究科教授兼任、研究当時は米・ニューヨーク マウントサイナイ医科大所属教授)らの研究チームによるもの。詳細は、米科学誌「Science」を刊行する米科学振興協会(AAAS)の学際的なオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
人体の免疫機構は自然免疫系と獲得免疫系に大別され、2度目以降の感染に対して働くのが獲得免疫系で、いわゆる免疫記憶の中枢とされている。細胞性反応と並んで獲得免疫応答を形成するのが抗体反応であり、その誘導にはTFH細胞が重要となることが分かっている。このTFH細胞応答は単に分化だけでなく持続が重要で、持続的なTFH細胞応答が高親和性抗体の産生、さらに長期生存型抗体産生細胞の生成など、長期にわたる抗体依存性防御機構の構築に必要とされているが、TFH細胞の分化経路は不明な点も多く、TFH応答がどのように持続するか、さらにTFH細胞がどのようにTFHメモリー細胞に分化するか、その機構はよくわかっていなかったという。
研究チームでは、これまでTFH細胞がヒトとマウスで分化経路、分画の機能など、さまざまな点で異なることを報告してきており、今回の研究では、ヒト検体とマウスモデルのどちらも用いて、転写因子Tox2のTFH細胞の持続、メモリーTFH細胞への分化への影響を検討することにしたという。
具体的には、ヒト血液と扁桃を用いた解析から、Tox2が扁桃内の最も成熟したTFH細胞にのみ高発現されることが判明したほか、Tox2の発現は、TFH細胞に特徴的な分子の発現と強く正に相関することが判明したという。
またTox2の強制発現は、扁桃成熟TFH細胞が、T細胞レセプター刺激によりTH1細胞へと分化していくのを防ぎ、TFH細胞の表現型を維持することも判明したほか、Tox2がTFH細胞分化に必須な転写因子Bcl6と協同的に作用することも判明したとする。
これらの知見は、ヒトTFH細胞においてTox2が非TFH細胞へと分化していくのを抑制する、すなわちTFH細胞の持続に重要であることを示すものであり、Tox2の生体内での役割をTox2欠損マウスを用いて解析したところ、2度目の免疫にてTox2欠損マウスでTFH細胞生成が減弱していることを確認したほか、インフルエンザ感染モデルでも、脾臓内でのTFH細胞の持続の減弱、再感染時のTFH細胞の生成の減弱が見られたとする。さらに、骨髄キメラモデルから、TFH細胞応答の減弱はT細胞依存性であることも確認したともする。
研究チームでは、持続的TFH細胞応答の誘導、メモリーTFH細胞の誘導は、長期的な抗体依存性生体防御機構に必要であり、今回の研究成果は、TFH細胞のTox2発現がこの過程に必要であることを示すものであり、長期的に抗体産生を誘導するワクチンの開発に重要な知見となると考えられるとしている。
ただし、まだ多くの謎が残っているともしており、今後は、ヒトT細胞でのTox2発現機構、ヒトTFH細胞におけるTox2機能機構の解明により、よりワクチン開発に有効な情報が得られると期待されるとしている。