豊橋技術科学大学(豊橋技科大)と東北大学は10月6日、複数の人間が協調して「ゾーン」に入った状態(チームフロー)に関係する脳波と脳領域を発見したと発表した。
同成果は、豊橋技科大 エレクトロニクス先端融合研究所のMohammad Shehata准教授を中心に、東北大、米・カリフォルニア工科大学の研究者らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、脳と神経系を扱う学術誌「eNuro」に掲載された。
スポーツなどにおいて、選手の集中力が高まり、それに伴うパフォーマンスが大きく向上する状態を一般的に「ゾーンに入る」などというが、心理学的にはそのゾーン状態のことは「フロー」と呼ばれる。またゾーンは、集団においても複数のメンバーが協調して入ることで、集団としてパフォーマンスでタスクを達成するときに経験する「チームフロー」と呼ばれる状態が生じることも分かっている。
こうしたチームフローの状態では、通常の限界を超えて調和の取れた極めて高いパフォーマンスが発揮され、チームスポーツのみならず、音楽活動(バンド)やダンス、ビジネスにおけるプロジェクトチームなどでも、こうした心理的現象が生じていることも報告されている。
そのため、こうしたチームフロー状態への科学的アプローチが長年続けられてきたが、個人のフローと比べ、複数の参加者にチームフローを再現してもらい、客観的に測定を行うということが難しい課題となっていた。
今回、研究チームは実験を通して、そうした課題を解決する方法を見出し、チームフローの神経科学的な証拠を明らかにしたという。具体的な実験内容としては、参加者が2人1組で音楽ビデオゲームをプレイしているとき、それぞれのプレイヤーの脳波を同時に測定するというもので、単に2人の協力プレイ状態で測定するだけではなく、フロー状態をコントロールするため、互いの顔を見えなくしたり、音楽を編集しゲームに没入しにくくし、フロー状態にはなれなくてもチームワークを保つことは可能な状態にしたりといった工夫が行われ、プレイ後に質問に答えてもらうことで、フロー状態のレベル評価が行われたという。
また、さまざまな状態(ソロフロー、チームワーク、チームフロー)にあるゲームプレイヤーの脳活動の比較を行ったところ、チームフローの状態では「中側頭皮質」で、ベータ波とガンマ波が増加していることが判明したほか、チームフロー状態では通常のチームワーク状態に比べて、チームメイトの脳活動がより強く同期することが判明したという。
今回の研究成果に研究チームでは、ビジネス、スポーツ、音楽、舞台芸術、ゲーム、エンターテインメントなど、人のパフォーマンスや喜びが重要な分野において、脳神経モデルに基づいたより効果的なチームビルディング戦略に活用できる方法論を提供するものだとしており、今後は、政府機関や産業界と協力して、チームのパフォーマンスをモニタリングしたり強化したりすることによって、さらに効果的なチームを構築するために、今回の研究成果を活用することを計画しているとしているほか、楽しさを維持しながらパフォーマンスを向上させることは、うつ病やパニック障害、不安症の発生率を低減するなど、生活の質の向上につながる可能性があるともしている。